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糖尿病(Ⅲ型糖尿病・二次性糖尿病)

糖尿病(Ⅲ型糖尿病・二次性糖尿病)

投稿者 hagiwara | 内分泌疾患, 治療例

10歳齢のヨーキーの女の子が、乳腺のしこりを主訴に来院されました。食欲が落ち、多飲多尿(お水をたくさんのみ、おしっこをたくさんすること)もあるようです。

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各種検査を行い、「糖尿病性ケトーシスまたはケトアシドーシス」・「乳腺腫瘍」と診断しました。

ここで糖尿病について、簡単にお話しいたします。

<わんちゃんの糖尿病について>———————————————————————-

膵臓から分泌されるインスリンの作用不足に基づく代謝性疾患です。インスリンは生体で血糖値を下げる唯一のホルモンで、膵臓のランゲルハンス島B細胞で産生・分泌されます。インスリンの作用が不足すると糖・蛋白質・脂質代謝が障害され、筋肉や脂肪組織の糖利用率が低下し、血液中の糖が増え(高血糖)、尿中に糖が検出されます。

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糖尿病はⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型糖尿病に分類されます。

*Ⅰ型糖尿病(インスリン依存性(IDDM))

β細胞からインスリンがでない。インスリン治療を生涯必要とする。

*Ⅱ型糖尿病(インスリン非依存性(NIDDM)):肥満猫に多い。

β細胞からインスリンがでているが、インスリンが効きにくくなっている。

*Ⅲ型糖尿病(ホルモン性・二次性糖尿病)

他の病気(副腎皮質機能亢進症・発情後(血中プロゲステロン濃度が上昇するため)など)が引き金になっておこる糖尿病。早期に糖尿病の原因になる病気を治療すれば根治することがあるが、進行するとⅠ型糖尿病になってしまうことがある。インスリンを投与しても血糖値が下がりにくい。

<発生>

わんちゃんの糖尿病は中高齢の女の子に多いです。(男の子より約2倍多いといわれています)なんとなく太っていると糖尿病になりやすそうですが、わんちゃんの場合、必ずしも肥満によって糖尿病になるわけではなく(猫ちゃんは肥満だと糖尿病になりやすいです)、免疫介在性疾患や膵炎が原因になっていることが多いです。

<症状>

肥満、削痩、多食、多飲、多尿→進行すると尿中にケトン(脂肪の分解産物)がでて(糖尿病性ケトーシスまたはケトアシドーシス)、昏睡状態になり死亡するケースもあります。

合併症には白内障、腎臓病などがあります。

<診断>

血液検査・尿検査など。

同時に全身精査を行い、糖尿病の原因になる病気や糖尿病を悪化させている病気がないか探します。

<治療>

①インスリン療法

②食事療法

③体重コントロール(特に肥満猫で)

④併発疾患(発情・炎症性疾患(慢性膵炎など)・内分泌疾患(甲状腺機能低下症・亢進症・副腎皮質機能亢進症)・感染症(口腔内・尿路系など)・腫瘍など)の治療

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このわんちゃんは、高血糖、尿糖を呈する以外に、尿中にケトン(脂肪の代謝産物)がでていました。(尿中のケトンの有無は尿試験紙で簡単にわかります。)

<尿試験紙>

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ケトンがでていると尿スティック検査で「ケトン体」というところが紫色になります。

尿中にケトンがでている場合、緊急事態(糖尿病性ケトアシドーシス)もしくは緊急事態の一歩手前(糖尿病性ケトーシス)になります。

他に何か病気がないか精査したところ、現在ちょうど発情後で血中のプロゲステロン(黄体ホルモン)濃度が高いことが判明しました。

発情後には黄体から分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)によって、インスリンが効きにくくなり、「Ⅲ型糖尿病」に陥るケースがあります。血中プロゲステロン濃度が下がれば、自然と糖尿病が治るケースもありますが、このまま1型糖尿病に移行し、生涯インスリン治療が必要になるケースもあります。また今後糖尿病の治療中に発情すると、血糖コントロールが著しく困難になるため、可能な限り避妊手術(卵巣子宮摘出術)をした方がよいといわれています。また避妊手術によって糖尿病が根治する可能性もあります。


今回はもともと乳腺のしこりを主訴に来院されたのですが、腫瘍患者は中高齢の子が多いので、術前検査によって他の病気がみつかることがよくあります。今回も術前検査により糖尿病がみつかり、乳腺腫瘍より糖尿病の方が先に命に関わってくる可能性が高いため、糖尿病を第一優先に治療しました。

本来ならすぐに手術をした方がよいですが、状態が悪く麻酔リスクが高かったため、インスリンの投与によってある程度血糖値を下げ、尿中のケトンが消失してから避妊手術を行うことにしました。

インスリン治療を行う際、数時間毎に簡易血糖測定器を用い、血糖値を測定します。

<インスリン>

私は状態によって2種類のインスリンを使い分けています。

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<簡易血糖測定器>

耳の辺縁を針で一瞬さし、血液を1滴だして血糖値を測定します。数秒で結果がでます。採血量が少ないため簡単に血糖値が測定できます。ある程度状態が落ち着いたら、飼い主様にこちらをお渡しして、自宅で血糖値を測定してもらっています。

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次に、インスリンをうった時間と血糖値を表にします。(血糖曲線)

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プロゲステロン(黄体ホルモン)濃度が高いため、インスリンの量を多くしてもなかなか血糖値がさがりませんでした。避妊手術をしたところ、術後1週にはインスリンの投与は必要なくなり、糖尿病は根治しました。

インスリンを投与してもなかなか血糖値がコントロールできない場合、大きく分けて3つの原因があります。下記の原因を1つ1つつぶしていくことが大切です。

<インスリンを投与しても血糖値をコントロールできない原因>

①注射技術の問題

②インスリンの問題(タイプ・投薬量・動物種・投与間隔)

③併発疾患(発情・炎症性疾患(慢性膵炎など)・内分泌疾患(甲状腺機能低下症・亢進症・副腎皮質機能亢進症)・感染症(口腔内・尿路系など)・腫瘍など)によるインスリン抵抗性

今回のように複数の病気がみつかった場合は、どの病気が一番先に命にかかわってくるか、生活の質を落としているかをよく考え治療をすることが重要です。

今年のお正月はこの子と過ごすことになりましたが、元気になって退院してくれてよかったです。糖尿病が落ち着いてから乳腺腫瘍の治療をすることになりました。糖尿病は病態が複雑なので、今回はつい文章が長くなってしまいました。乳腺腫瘍の治療については別の機会に記載しようと思っています。

お問い合わせ:TEL 042-531-3912

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