内分泌疾患 記事一覧
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甲状腺機能低下症とクッシング症候群のセミナーに参加してまいりました
9月25日(日)は院長と一緒にミッドタウンで開催されたセミナーに参加してまいりました。
今回は犬の甲状腺機能低下症とクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)についてのセミナーでした。
両方の病気ともに当院でも特に中高齢のわんちゃんでしばしばみかける病気であるため、日々の診療に役立つ内容でした。
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インスリノーマ
1月26日、27日はお休みを頂いて、母校の麻布大学で開催された日本獣医がん学会に参加してまいりました。今回のシンポジウムはインスリノーマでした。
【インスリノーマ】
インスリノーマとはインスリン(血糖値を下げるホルモン)を分泌する膵臓β細胞の腫瘍です。腫瘍細胞による過剰なインスリン分泌によって低血糖になり様々な症状がみられます。ヒトではほとんど良性ですが、犬ではほとんどが悪性になります。<臨床症状>
発作・虚弱・虚脱・運動失調・筋肉の痙攣・沈鬱・多飲多尿・失神など
<挙動>
ほとんどが悪性腫瘍
転移性が高く、診断時に51%で転移があったという報告がある<診断>
低血糖と血中インスリン濃度の上昇
他の低血糖になる病気を除外
<治療>
①外科療法
第一選択となる。
罹患犬の10%以上で複数の腫瘍が認められる
術後中央生存期間は12.5カ月との報告がある
②内科療法
手術による摘出が不可能な場合や手術を行わない場合は内科療法が行われる
運動制限
高蛋白質・低炭水化物の食事を少量頻回給与
薬物療法(ステロイド・ジアゾキシド・オクトレオチド・ストレプトゾトシンなど)
今回、海外の先生がインスリノーマについて講義をされた後、各病院による症例発表がありました。基礎知識を復習する事ができ、また新しい知見もあり勉強になりました。
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クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
7歳齢のシーズーの男の子が歩行を嫌がるとの主訴で来院されました。
X線検査にて明らかな骨・関節の異常は認められませんでしたが、肉球には石灰沈着がみられ、一部出血が認められました。
その他、多飲多尿も認められたため特にクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)を疑い、全身精査を行うことになりました。
超音波検査にて左副腎は8.7mm、右副腎は7.8mmであり、左右副腎ともに腫大が認められました。(正常のわんちゃんの副腎は6mm以下になります)
ACTH刺激試験にてコルチゾールはpreが4.5、postが65.8でした。(postが25以上だった場合、クッシング症候群を疑います。)
以上の所見よりクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)を疑い、各種治療オプションを提示したところ、飼い主様は飲み薬による治療を選択されました。【クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)】
副腎皮質から分泌されるホルモンの過剰分泌によっておこる病気です。<原因>
下垂体腫瘍(80%)または副腎腫瘍(20%)<症状>
多飲多尿、多食、皮膚の菲薄化、左右対称性の脱毛、肥満、腹部膨満、発作など<治療>
内科療法・放射線療法・外科療法があります。各々の治療法においてメリット・デメリットがございますので飼い主様と相談の上、治療方針を決めていきます。 -
甲状腺機能亢進症の食事療法
先週は甲状腺機能亢進症のセミナーを受講してまいりました。
「y/d」という猫の甲状腺機能亢進症専用の療法食についての説明がありました。
こちらのフードは新商品となります。
このフードはヨウ素を非常に低く制限しており、過剰な甲状腺ホルモンの産生・放出を抑制する一方、必要量は維持します。毎日の食事としてこのフードのみを与えると、かなりの率で甲状腺ホルモンを安定させることができるといわれています。開始される場合は獣医師によるモニターが必要になりますのでご相談ください。
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犬の甲状腺機能低下症
先日は院長と一緒に都内で開催された犬の甲状腺機能低下症の講習会に参加してまいりました。
【犬の甲状腺機能低下症】
甲状腺機能低下症は成犬において最も多い内分泌疾患です。犬の甲状腺機能低下症の多くは、絶対的な甲状腺ホルモンの不足または欠乏によりおこり、自己免疫性甲状腺炎および特発的(原因不明)な甲状腺機能低下症に分類されています。<発生率>
欧米における発生率は0.2~0.8%と報告されており、日本では0.1%前後と低値ではありますが、近年は増加傾向にあります。その理由として、犬の甲状腺機能低下症に対する認識が深まったこと、および甲状腺ホルモンを測定することが可能な検査機関が増加し、診断が比較的容易になったことがあります。また、犬の寿命が長くなってきていることも理由の1つであると考えられます。<症状>
下記のように、症状は多岐にわたります。
①代謝性(無気力・不活発・体重増加・肥満・寒さに弱いなど)
②皮膚被毛(内分泌性脱毛・被毛粗剛・色素沈着・落屑亢進・慢性再発性外耳道炎・皮膚易感染症・粘液水腫など)
③循環器系(徐脈など)
④生殖機能(不妊症・無発情など)
⑤その他(神経症状・粘液水腫性昏睡・巨大食道症・喉頭麻痺など)
「悲劇的顔貌」といって、悲しい顔をしているようにみえることがあります。<好発犬種>
ビーグル・ゴールデンレトリーバー・シェルティー・柴犬など<血液検査>
軽度の正球性正色素性貧血・高コレステロール血症などが認められることがある。<診断>
甲状腺ホルモンの測定<治療>
甲状腺製剤の投与ここ10年で犬の甲状腺機能低下症の発生率は5倍に増加しているそうです。確かに、現在、院長も私も各々甲状腺機能低下症の症例を治療しており、そんなに少ない病気ではないように思えます。
甲状腺機能低下症はシェルティーに多い病気であるといわれているので、今後ハリー君も気を付けなければならないなと思います。上記のような症状がありましたら、まずはご相談頂ければと思います。
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糖尿病(Ⅲ型糖尿病・二次性糖尿病)
10歳齢のヨーキーの女の子が、乳腺のしこりを主訴に来院されました。食欲が落ち、多飲多尿(お水をたくさんのみ、おしっこをたくさんすること)もあるようです。
各種検査を行い、「糖尿病性ケトーシスまたはケトアシドーシス」・「乳腺腫瘍」と診断しました。
ここで糖尿病について、簡単にお話しいたします。
<わんちゃんの糖尿病について>———————————————————————-
膵臓から分泌されるインスリンの作用不足に基づく代謝性疾患です。インスリンは生体で血糖値を下げる唯一のホルモンで、膵臓のランゲルハンス島B細胞で産生・分泌されます。インスリンの作用が不足すると糖・蛋白質・脂質代謝が障害され、筋肉や脂肪組織の糖利用率が低下し、血液中の糖が増え(高血糖)、尿中に糖が検出されます。
糖尿病はⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型糖尿病に分類されます。
*Ⅰ型糖尿病(インスリン依存性(IDDM))
β細胞からインスリンがでない。インスリン治療を生涯必要とする。
*Ⅱ型糖尿病(インスリン非依存性(NIDDM)):肥満猫に多い。
β細胞からインスリンがでているが、インスリンが効きにくくなっている。
*Ⅲ型糖尿病(ホルモン性・二次性糖尿病)
他の病気(副腎皮質機能亢進症・発情後(血中プロゲステロン濃度が上昇するため)など)が引き金になっておこる糖尿病。早期に糖尿病の原因になる病気を治療すれば根治することがあるが、進行するとⅠ型糖尿病になってしまうことがある。インスリンを投与しても血糖値が下がりにくい。
<発生>
わんちゃんの糖尿病は中高齢の女の子に多いです。(男の子より約2倍多いといわれています)なんとなく太っていると糖尿病になりやすそうですが、わんちゃんの場合、必ずしも肥満によって糖尿病になるわけではなく(猫ちゃんは肥満だと糖尿病になりやすいです)、免疫介在性疾患や膵炎が原因になっていることが多いです。
<症状>
肥満、削痩、多食、多飲、多尿→進行すると尿中にケトン(脂肪の分解産物)がでて(糖尿病性ケトーシスまたはケトアシドーシス)、昏睡状態になり死亡するケースもあります。
合併症には白内障、腎臓病などがあります。
<診断>
血液検査・尿検査など。
同時に全身精査を行い、糖尿病の原因になる病気や糖尿病を悪化させている病気がないか探します。
<治療>
①インスリン療法
②食事療法
③体重コントロール(特に肥満猫で)
④併発疾患(発情・炎症性疾患(慢性膵炎など)・内分泌疾患(甲状腺機能低下症・亢進症・副腎皮質機能亢進症)・感染症(口腔内・尿路系など)・腫瘍など)の治療
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このわんちゃんは、高血糖、尿糖を呈する以外に、尿中にケトン(脂肪の代謝産物)がでていました。(尿中のケトンの有無は尿試験紙で簡単にわかります。)
<尿試験紙>
ケトンがでていると尿スティック検査で「ケトン体」というところが紫色になります。
尿中にケトンがでている場合、緊急事態(糖尿病性ケトアシドーシス)もしくは緊急事態の一歩手前(糖尿病性ケトーシス)になります。
他に何か病気がないか精査したところ、現在ちょうど発情後で血中のプロゲステロン(黄体ホルモン)濃度が高いことが判明しました。
発情後には黄体から分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)によって、インスリンが効きにくくなり、「Ⅲ型糖尿病」に陥るケースがあります。血中プロゲステロン濃度が下がれば、自然と糖尿病が治るケースもありますが、このまま1型糖尿病に移行し、生涯インスリン治療が必要になるケースもあります。また今後糖尿病の治療中に発情すると、血糖コントロールが著しく困難になるため、可能な限り避妊手術(卵巣子宮摘出術)をした方がよいといわれています。また避妊手術によって糖尿病が根治する可能性もあります。
今回はもともと乳腺のしこりを主訴に来院されたのですが、腫瘍患者は中高齢の子が多いので、術前検査によって他の病気がみつかることがよくあります。今回も術前検査により糖尿病がみつかり、乳腺腫瘍より糖尿病の方が先に命に関わってくる可能性が高いため、糖尿病を第一優先に治療しました。
本来ならすぐに手術をした方がよいですが、状態が悪く麻酔リスクが高かったため、インスリンの投与によってある程度血糖値を下げ、尿中のケトンが消失してから避妊手術を行うことにしました。
インスリン治療を行う際、数時間毎に簡易血糖測定器を用い、血糖値を測定します。
<インスリン>
私は状態によって2種類のインスリンを使い分けています。
<簡易血糖測定器>
耳の辺縁を針で一瞬さし、血液を1滴だして血糖値を測定します。数秒で結果がでます。採血量が少ないため簡単に血糖値が測定できます。ある程度状態が落ち着いたら、飼い主様にこちらをお渡しして、自宅で血糖値を測定してもらっています。
次に、インスリンをうった時間と血糖値を表にします。(血糖曲線)
プロゲステロン(黄体ホルモン)濃度が高いため、インスリンの量を多くしてもなかなか血糖値がさがりませんでした。避妊手術をしたところ、術後1週にはインスリンの投与は必要なくなり、糖尿病は根治しました。
インスリンを投与してもなかなか血糖値がコントロールできない場合、大きく分けて3つの原因があります。下記の原因を1つ1つつぶしていくことが大切です。
<インスリンを投与しても血糖値をコントロールできない原因>
①注射技術の問題
②インスリンの問題(タイプ・投薬量・動物種・投与間隔)
③併発疾患(発情・炎症性疾患(慢性膵炎など)・内分泌疾患(甲状腺機能低下症・亢進症・副腎皮質機能亢進症)・感染症(口腔内・尿路系など)・腫瘍など)によるインスリン抵抗性
今回のように複数の病気がみつかった場合は、どの病気が一番先に命にかかわってくるか、生活の質を落としているかをよく考え治療をすることが重要です。
今年のお正月はこの子と過ごすことになりましたが、元気になって退院してくれてよかったです。糖尿病が落ち着いてから乳腺腫瘍の治療をすることになりました。糖尿病は病態が複雑なので、今回はつい文章が長くなってしまいました。乳腺腫瘍の治療については別の機会に記載しようと思っています。
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甲状腺機能亢進症
こんにちは。獣医師の萩原です。ご報告が遅れましたが、先月中旬に今年初めての勉強会に参加してまいりました。様々な「猫の疾患」についての講義だったのですが、その中でも比較的中高齢の猫ちゃんに多くみられる「甲状腺機能亢進症」という病気について講義を受けてきたのでご説明させて頂きます。
【甲状腺機能亢進症】
<臨床症状>
体重減少・多食・食欲不振・脱毛・多飲多尿・下痢・嘔吐・活動亢進・元気消失・呼吸速迫・落ち着きがない・攻撃的・疲労など
*以上のように様々な症状がみられることがあります。「体重減少・多食」が比較的多くみられますが、実際、「多食」を主訴で来院される飼い主様はほとんどいらっしゃいません。高齢になってから食欲が増した猫ちゃんは、まずこの病気を除外しておいた方がよろしいかと思います。逆に「食欲不振」という症状もみられるため注意が必要です。
<身体検査>
削痩、脱毛、皮膚脱水、頻脈、心雑音、パンティング
*この中で飼い主様が一番気づきやすいのは「削痩」だと思います。ハーハーしてしている(=パンティング)場合すでに循環器・呼吸器にも異常が出始めている可能性があるため要注意です。
<血液検査>
肝酵素の上昇が認められることがある。
*血液検査では何も異常がみられないこともあります。
<画像診断>
心肥大が認められることがある。
*心肥大の症状がなくても、画像診断上(胸部レントゲン・心エコー検査)ではすでに異常がみられることがありますので、検査をお勧めしております。
<診断>
甲状腺ホルモンの測定
*外注検査になります。検査結果は2~3日ででます。
<治療>
内科治療:抗甲状腺薬の投与
外科的手術:甲状腺の摘出
*各々、メリット・デメリットがありますので、ご相談の上決定させて頂きます。
<予後>
併発疾患によって大きく左右されます。慢性腎不全(これも中高齢の猫ちゃんに多い病気です)が併発している場合、甲状腺機能亢進症を治療することで慢性腎不全が悪化することがあります。このような場合には慢性腎不全に対する維持治療をしっかりと行います。
*この病気になった猫ちゃんは痩せていて目がぎらついていることが多いといわれています。下の猫ちゃんは甲状腺機能亢進症の猫ちゃんです。
【メイちゃん・19歳・女の子】
この子は治療を開始してから1年半になります。頑張ってお薬を飲んでいるため、甲状腺ホルモンはある程度落ち着いてくれています。
ちなみにこの病気は1979年に初めて報告されました。今では猫ちゃんの内分泌疾患の中で発生頻度の高い疾患になっています。現在のように一般的な病気になった原因は、診断技術の進歩、猫ちゃんの高齢化など様々な要因が関与しているといわれています。獣医学の進歩によって、昔は診断されなかった病気が診断できるようになってきているのです。獣医学は日進月歩なので、いつまでも勉強し続けないと知識が遅れてしまうのだろうなと思う今日この頃です。