脳・神経科 記事一覧
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神経病の勉強会に参加してまいりました
今回は立てないわんちゃんに関する勉強会でした。当院にも立てないわんちゃんが来院されることがあり、まずは立てない原因をみつけることになります。診断するにはまずは神経学的検査を行ってから次の検査にすすむことが多いです。全身状態が悪くて立てないこともありますので、全身精査をお勧めすることもあります。
今回はイギリスの神経専門医の先生が様々な症例の動画をみせながら説明して下さり実践的で勉強になりました。
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てんかんのセミナーに参加してまいりました
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てんかんの治療薬
先日はてんかんのセミナーに行ってまいりました。今回はてんかんの治療薬についてご説明致します。
【てんかんの治療薬(抗けいれん薬)】
①フェノバール
犬における第一選択薬の1つ。
副作用:鎮静・運動失調・多飲多尿・食欲亢進・体重増加・肝不全(まれ)・骨髄抑制など②臭化カリウム
併用または単剤で有効。猫では禁忌。
副作用:鎮静・後肢硬直・運動失調・嘔吐・多飲多尿・食欲亢進・体重増加など
胃腸障害を防ぐために食事と一緒に与えるとよいかもしれない。
③ゾニサミド
日本で開発された比較的新しい抗てんかん薬。第一選択薬の1つ。
単剤で良好に作用。
副作用:ほとんどない④ガバペンチン
2006年に日本で認可された比較的新しい抗てんかん薬。
1日3回以上の投与が必要。
⑤フェルバメート
犬では非常に有効性が高い。鎮静作用はない。
可能性のある副作用:肝障害・血液疾患⑥レベチラセタム
新しい抗てんかん薬。1日3回投与。
副作用:なし たまに鎮静作用がでる⑦プレガバリン
強力な抗けいれん薬・鎮痛薬・抗不安薬。
比較的鎮静効果なし
昔はてんかんの治療薬の種類はもっと少なかったのですが、現在は副作用の少ない新薬が開発されてきています。今回は特に新薬についてのお話しを聴くことができて勉強になりました。
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椎間板ヘルニアの手術のセミナーに参加してきました
先日は椎間板ヘルニアの手術のセミナーに参加してきました。椎間板ヘルニアについては以前ご説明したことがありますのでこちらをご参照ください。
今回のセミナーではより使用しやすい手術器具についての説明がありました。当院でも椎間板ヘルニアの手術に使用する器具は買い揃えてあるのですが、今回セミナーを聴き、さらに使いやすそうな器具を購入することになりました。
実践的なセミナーを受けることができてよかったです。
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重症筋無力症
先日は日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズの神経病についての講義を受けました。
今回は神経病の1つである重症筋無力症についてお話し致します。
【重症筋無力症】
重症筋無力症とは筋肉の脱力を主徴とする疾患です。犬での発生はあまり頻繁ではありませんが、猫ではさらにまれな病気だといわれています。動物では先天性、後天性、さらに後天性を劇症型、全身型、局所型の3型に分類するのが一般的です。
【病型分類と主な症状】
型別
侵される部位
症状
局所型
眼筋や顔面周囲の筋肉
角膜反射の減退・消失
咽頭筋の麻痺
嚥下困難
食道筋の運動不全
吐出
全身型
四肢の筋肉(特に後駆)
易疲労性
起立位での振戦
全身の横紋筋の麻痺
巨大食道、その他
劇症型
急速な呼吸筋の麻痺
呼吸困難
誤嚥性肺炎
治療は臭化ピリドスチグミンの投与になります。また、誤嚥性肺炎がある場合はその治療も必要になります。
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神経学的検査
昨日は日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズの神経病の講義に参加してまいりました。
今回は神経学的検査についてお話し致します。【神経学的検査】
神経疾患と他の疾患を鑑別するためには、神経学的検査が極めて有効です。鉗子、ライト、打診槌などがあれば簡単に行うことができます。<打診槌>
黒いところはゴムになっており、ここでたたいて刺激を与えます。
神経学的検査表に沿って検査を行います。
①視診
精神状態、意識の状態、行動、姿勢、不随意運動の有無などを中心に評価します。②歩様検査
特徴的な姿勢や歩様を示すことが多いので、それらを注意深く観察します。③姿勢反応
固有位置感覚、踏み直り反応、跳び直り反応、立ち直り反応、手押し車反応、姿勢性伸筋突伸反応を行います。④脊髄反射
膝蓋腱反射、前脛骨筋反射、腓腹筋反射、橈側手根伸筋反射、ニ頭筋反射、三頭筋反射、屈曲反射、交叉伸展反射、会陰反射、皮筋反射を行います。⑤脳神経検査
顔面の対称性、眼瞼反射、角膜反射、威嚇まばたき反応、瞳孔の対称性、斜視、眼振、生理的眼振、対光反射、知覚、開口時の筋緊張、舌の動き・位置・対称性、飲み込み、僧帽筋・胸骨上腕頭筋の対称性、綿球落下テスト、嗅覚を観察します。⑥知覚検査
表在痛覚、深部痛覚、知覚過敏を観察します。⑦排尿機能
自然排尿の有無、膀胱の状態を確認します。以上の検査を行った後、病変がどこにあるのかを予測します。
神経学的検査は特殊な器具や器材を必要としないため神経疾患を疑う子においては実施するようにしています。全ての項目を検査すると時間がかかるため、お預かりしてから検査するようにしています。
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てんかん
3月17日(水)は夜から東京都内で開催されている日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズの「反復性発作の診断と治療」についての講義に参加してまいりました。「反復性発作」の中でわんちゃん・ねこちゃんに多い代表的な病気は「てんかん」です。今回は「てんかん」についてお話させて頂きます。
【てんかんの分類】
「てんかん」は病因によって「特発性てんかん」と「症候性てんかん」に分類されます。「特発性てんかん」とは脳に器質的病変が存在せず、発作を起こす原因が遺伝的素因以外に認められないてんかんを指します。一般に発作がみられない時には脳波検査以外の臨床検査で異常所見が認められません。初発発作の発症年齢は1~3歳で最も多いです。わんちゃんに多く猫ちゃんでは比較的まれです。
「症候性てんかん」とは脳に発作の原因となる器質的病変が認められるてんかんのことで、脳腫瘍や脳炎、脳奇形(水頭症など)、脳血管障害などにより発作が反復する場合を指します。発作以外に神経学的検査で異常所見が得られることが多いです。発症年齢は原因疾患により様々です。(例えば脳腫瘍であれば7歳以上、水頭症であれば1歳未満に多いです)猫ちゃんでは症候性てんかんであることが多いです。
一般にわんちゃんでは約6~7割が「特発性」、猫ちゃんでは約6~7割が「症候性」であるといわれています。
【発生率】
わんちゃんはおおよそ1~2%、猫ちゃんでは0.5%程度と報告されています。【診断】
問診、一般身体検査、臨床検査(血液検査、レントゲン検査、超音波検査など)、神経学的検査を行うことによって特発性てんかんまたは症候性てんかんの鑑別を行います。
ここで特発性てんかんをより確定的にするため、あるいは症候性てんかんの原因を見出すために追加検査へ進む場合があります。追加検査として脳波、MRI検査、脳脊髄液検査などがあります。【治療】
一般的な治療法は抗てんかん薬を用いた内科的療法になります。
抗てんかん薬は一般的に「3ヵ月に2回以上の発作がみられる場合」「発作が群発(短時間に連続する発作(24時間以内に2回以上))あるいは重積(てんかん発作が30分以上持続している状態)する場合」「症候性てんかんが明らかな場合」に開始いたします。
最初は1種類の抗てんかん薬から開始し、1種類では良好なコントロールが得られない場合には2種類以上のお薬を併用していきます。副作用がみられる場合もあるため、1年に2回は血液検査をすることをお勧めします。特発性てんかんでは一生涯治療が必要になることが多く、発作をいかにコントロールし、生活の質を維持していくかが治療の目標になります。一般に治療開始前の発作頻度にくらべ治療開始後の発作頻度が50%以下となることを目指します。抗てんかん薬による治療を行っていても、発作を100%抑制することができるケースはきわめてまれで、たいていの動物は治療を行っていてもいくらかの発作を示します。「てんかんは基本的に完治する病気ではない」こと、「治療を行っていても発作は出る」ことをあらかじめ認識しておく必要があります。また、抗てんかん薬を飲ませ忘れたり休薬した場合、一種の禁断症状がみられ発作がおきやすくなってしまうことがあるため、絶対に行ってはいけません。
てんかん患者のうち20~30%の症例は抗てんかん薬を用いても良好な発作コントロールができず、難治性てんかんと呼ばれます。逆に言うと70~80%の患者は適切な抗てんかん薬により発作をコントロールできます。
もうすぐで開業して1年がたちますが、当院でもてんかんをお薬でコントロールしているわんちゃんが何頭かいらっしゃいます。発作を完全には抑えることは難しいですが、少しでも生活の質をあげるお手伝いができればと思っております。
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わんちゃんの痴呆
こんにちは。獣医師の萩原です。本日は「子犬と老犬の問題行動」についてのセミナーに参加してまいりました。
わんちゃんの高齢化現象が進むとともに、高齢に伴う疾患が重要になりつつあります。その中でも飼い主さんの日常生活に多大な影響を与える疾患の1つが痴呆です。
今回は老犬の問題行動の1つである「痴呆」についてご説明させて頂こうと思います。【わんちゃんの痴呆について】
症状は大きな抑揚のない一本調子な鳴き声が続く、昼はほとんど寝ているのに夜起きだす(昼夜逆転)、夜中に放浪を始める、狭い所に入っては鳴く、トイレの失敗、といったものがあります。*下記のうち2項目以上当てはまる13歳以上のわんちゃんは痴呆の疑いがあります*
①夜中に意味もなく、単調な大きな声で鳴きだし制止できない。
②歩行は前にのみトボトボ歩き、円を描くように歩く。
③狭い所に入りたがり、自分で後退できないで鳴く。
④飼い主、自分の名前、習慣行動がわからなくなり、何事にも無反応。
⑤よく寝て、よく食べて、下痢もせず、痩せてくる。日本では痴呆犬の7割以上が柴犬および日本犬系雑種で占められているともいわれています。原因ははっきりわかっていません。
現在、痴呆自体を根治できる治療法はなく、治療は主に対症療法になります。例えば夜鳴いて眠らない時には、睡眠導入剤などを使用して睡眠を助けてあげます。また、痴呆のわんちゃん用のサプリメントや療法食もでています。
【実家の愛犬ゴンちゃん(12歳・柴犬)】
私が大学1年生の時に飼い始めました。
もうすぐ13歳になります。
13歳以上の柴犬といえば他の犬種に比べたら痴呆になる確率が高いですが、いつまでも元気でいてほしいです。ソファーがお気に入りです。
気持ち良さそうにねています。
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椎間板ヘルニア
本日は午前診療終了後、新宿で開催された「神経学的検査・脊髄疾患」の勉強会に参加してまいりました。今回は脊髄疾患の1つである「椎間板ヘルニア」についてご説明させて頂こうと思います。
背骨と背骨の間には椎間板といわれる物質が存在します。また、背骨の中には脊髄(神経)が存在します。椎間板ヘルニアとは椎間板の変性が生じ、椎間板が突出することによって脊髄を圧迫・傷害し、様々な神経症状を引き起こす疾患です。ダックスフンド(圧倒的に多いので要注意です!)、ビーグル、ウェルッシュ・コーギー、シーズー、プードルなどに多いといわれています。通常は頚部や背中に痛みが生じ、より重度になると歩行不全、排尿・排便困難、完全麻痺へと進行します。3~6%の症例では進行性脊髄軟化症(脊髄が尾側から頭側に向かって壊死し呼吸が停止してしまいます)を発症し、死亡してしまうこともあります。
診断はまず神経学的検査を行い、病気の進行度、病変の大まかな位置などを確認します。単純レントゲン検査では診断率は50%といわれており、確定診断には全身麻酔下での脊髄造影検査(脊髄に造影剤を流してからレントゲン撮影をする検査)、CT、MRI検査などが必要になります。症状によってグレード1~5に分類します。【椎間板ヘルニアのグレード分類】
グレードI:疼痛のみで神経症状がない
グレードII不全麻痺だが歩行可能
グレードIII:重度の不全麻痺(歩行・起立不可)
グレードIV:完全麻痺
グレードV:深部痛覚のない完全麻痺グレードが低い症例では内科療法(痛み止めのお薬などを内服し絶対安静)によって良くなることが多いといわれていますが、グレードが高くなるにつれて、特に4以上では内科療法では反応しないことが多く、その場合、手術で椎間板物質を摘出しなければなりません。しかし、手術をすれば絶対に治るというわけではなく、神経の炎症がひどい場合には良くならないこともあります。
突然発症することが多いので、驚いて来院される方が多い病気です。上記のような症状がみられましたら、お早めにご相談ください。 -
脳腫瘍
本日は夜から東京都内で開催されている日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズに参加してまいりました。10月28日に受講した「脳疾患」の続きでした。
前回もブログに書かせて頂きましたが、脳疾患は原因により大まかに7つに分類されます。その頭文字をとって、「DAMNIT-V」と呼ばれています。
D (degenerative) 変性性:蓄積病・てんかんなど
A (anomaious) 先天奇形:水頭症・小脳形成不全・キアリ奇形・脊髄空洞症など
M (metabolic) 代謝性:肝性脳症・低酸素脳症・尿毒症・低血糖脳症など
N (neoplastic) 腫瘍性:脳腫瘍・脊髄腫瘍・転移性腫瘍・末梢神経腫瘍など
I (inflammatory) 炎症性:肉芽腫性髄膜脳脊髄炎など
(infectious) 感染性:ジステンパーウィルス脳炎・細菌性髄膜炎など
(idiopathic) 特発性:てんかん・特発性三叉神経炎など
(iatrogenic) 医原性:医原性クッシング症候群など
T (traumatic) 外傷性:頭部外傷・脊髄損傷など
(toxic) 中毒性:殺虫剤など
V (vascular) 血管性:脳梗塞・脳出血・脊髄梗塞など
に分類されます。一口に脳疾患といっても様々な原因があるのです。わんちゃん・ねこちゃんでは、昔はこれらのうち、感染性(ジステンパーウィルス脳炎など)・外傷性(交通事故などで頭を打ってしまう)が多かったのですが、現在は高齢化や飼育環境の改善に伴い、脳腫瘍や脳梗塞なども増えていると言われています。今回は脳腫瘍についてお話させて頂きます。
脳腫瘍は7歳以上のボクサー、ボストンテリア、ゴールデン・レトリーバー、ヨーキー、フレンチブルドック、W.コーギーなどに好発するといわれています。特に、ボクサーには脳腫瘍が多いといわれています。症状は徐々に進行しますが、時に急性に進行することがあります。症状は比較的、片側性に神経学的異常がみられますが、病変の部位により様々で、まれにてんかん発作のみのこともあります。診断は主にMRIになり、治療は大きく分けて外科手術、放射線治療、化学療法、内科療法になります。
脳腫瘍は原発性脳腫瘍(原発腫瘍が脳:髄膜種・星状膠腫・希突起膠腫・上衣腫・下垂体腫瘍・リンパ腫など)と転移性腫瘍(原発腫瘍が脳以外にあって、それが脳に転移をおこすもの:血管肉腫転移・乳腺癌転移など)に大まかにわけられます。種類がたくさんあって、診断するのは難しそうですが、MRI画像の特徴によっておおよそ診断できる腫瘍もあるそうです。今回は多くのMRI画像をみることができて、すごく勉強になりました。 -
キアリ様奇形
本日は夜から東京都内で開催されている日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズに参加してまいりました。本日は「脳疾患」についての講義でした。
脳疾患は原因により大まかに7つに分類されます。その頭文字をとって、「DAMNIT-V」と呼ばれています。
D (degenerative) 変性性:蓄積病・てんかんなど
A (anomaious) 先天奇形:水頭症・小脳形成不全・キアリ奇形・脊髄空洞症など
M (metabolic) 代謝性:肝性脳症・低酸素脳症・尿毒症・低血糖脳症など
N (neoplastic) 腫瘍性:脳腫瘍・脊髄腫瘍・転移性腫瘍・末梢神経腫瘍など
I (inflammatory) 炎症性:肉芽腫性髄膜脳脊髄炎など
(infectious) 感染性:ジステンパーウィルス脳炎・細菌性髄膜炎など
(idiopathic) 特発性:てんかん・特発性三叉神経炎など
(iatrogenic) 医原性:医原性クッシング症候群など
T (traumatic) 外傷性:頭部外傷・脊髄損傷など
(toxic) 中毒性:殺虫剤など
V (vascular) 血管性:脳梗塞・脳出血・脊髄梗塞など本日は、この中で主にD (degenerative) 変性性疾患とA (anomaious)
先天奇形についてのお話でした。今回はこの中のA (anomaious)
先天奇形に分類される「キアリ様奇形」についてご説明させていただきたいと思います。
「キアリ様奇形」とは小脳扁桃が脊柱管内に陥入してしまう奇形で、「偽小脳ヘルニア」とも呼ばれています。水頭症や脊髄空洞症といった脳疾患を併発することもあります。犬種はキャバリア・キングチャールズスパニエルに圧倒的に多いといわれており、キャバリア・キングチャールズスパニエルの7~8割は、臨床症状はないのですが、キアリ奇形をもっていると言われています。奇形疾患は比較的若齢時での発症・診断が多いと言われておりますが、この病気は比較的中齢(5~6歳)に診断されることが多いそうです。臨床症状として、発作・斜頚・前肢の軽度不全麻痺~四肢不全麻痺・知覚過敏・側湾症(背骨を曲げる)などの一般的な神経症状がみられることもありますが、特徴的な症状として皮膚病変がないにも関わらず頚部を異常にひっかく行動がみられ、ひどくなると頚部痛をおこすとも言われています。診断は主にMRI検査になり、治療は内科的にお薬で付き合っていく方法と外科的治療があります。
頚部をひっかく症状が、まさか頭の疾患だとは思いにくいですよね。皮膚病や外耳炎がないにも関わらず、しきりに首をひっかいている症状がみられましたら、お気軽にご相談ください。