形成外科 記事一覧
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湿潤療法(うるおい療法)
昨日は診察終了後、「湿潤療法(うるおい療法)」に関するセミナーに参加してまいりました。講師は人間のお医者様で、その分野に関しては有名な先生です。(先生のホームページはこちらになります)聴講者の大半が医師でしたが、当院でもケガをしたわんちゃん・ねこちゃんが多く来院されますので何か参考になることがあればと思い、院長と一緒に参加してきました。
以前にも「湿潤療法」についてお話ししたことがありますが、湿潤環境下では肉芽の増生が非常に早いため、最近では創傷治療には湿潤環境が適していることがわかってきました。
少し前までは創面にはガーゼをあて乾燥させるのが一般的な治療法でしたが、現在ではガーゼを張って剥がすと傷が深くなり余計悪化させてしまうため、傷口にはガーゼをあててはいけないといわれています。昔は「傷は乾かして治す」のが一般的でしたが、今では「傷は乾かすと治りにくい」のが一般的になっているのです。
今回はガーゼに変わって新しく開発された創傷被覆材(創面にあてるもの)についての説明もありました。
創傷被覆材は、「①創面に固着しないこと ②創面を乾かさないこと ③ある程度、吸水力があること」が重要であるといわれています。様々な会社から様々な創傷被覆材が販売されています。しかし、創傷被覆材は毎日交換することが多いため、あまり高価なものは使用しにくいのが現実です。簡単にできる創傷被覆材として、紙おむつや母乳パッドに穴あきポリ袋をつける方法があります。これは安価で創面にも固着せず使いやすいです。
私も幼い時にストーブの上に座ってしまい、太ももに大やけどをしてしまったことがあります。その頃は「やけどは消毒してガーゼをあてる」のが一般的な治療法だったので、毎日のようにお医者さんに通い、ガーゼ交換をしてもらっていました。ガーゼを創面にあてると乾燥するので、剥がす時に痂皮などがとれて血がでてしまい、随分痛くて辛い思いをしました。また、治癒までかなり時間がかかりました。その頃、もう少し医療が進歩していたら痛い思いをせず、もっと早く治っていたのにと思います。
ケガで来院されたわんちゃん・ねこちゃんに対してはできるだけ痛みを与えることなく、できるだけ早く治してあげることができるように、日々、創傷治療についての勉強を続けていこうと思っています。
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猫のエーラス・ダンロス症候群(皮膚無力症)
11ヵ月齢のチンチラの女の子が、肩部の皮膚の毛を噛んでひっぱってしまい皮膚がめくれてしまったとの主訴で来院されました。2ヵ月前と3ヵ月前にも同じようなことがあったとのことです。
こちらが患部になります。広範囲に傷がみられ、皮膚がめくれてしまっています。
お家に仲の悪い同居猫がいたり、お外で飼育されている猫ちゃんではケンカなどによって膿が貯留した後破裂しこのような病変がみられることがありますが、この子は室内で単頭飼育です。また膿が貯留していた様子もなかったとのことです。ここ以外の場所には皮膚病変は見当たりません。なお寄生虫・真菌検査は陰性です。
前回までは消毒で治ったそうですが、今回は病変部が広範囲で内科治療では治癒が難しいと思われます。飼い主様とご相談し、全身麻酔をかけて手術を行うことにしました。
バリカンで周囲の毛をかったところ皮膚が容易に傷つき、非常にもろく、異様に皮膚が伸びることがわかりました。皮膚はめくれて、傷口は直径8cm大にも及んでおり、皮下脂肪と筋肉は感染をおこしています。
ここで「エーラス・ダンロス症候群」という病気を疑い、めくれた皮膚を切除し病理組織検査に提出しました。
感染はより広範囲に及んでいることがわかりました。
この子の皮膚は前述したように驚くほどよく伸びます。飼い主様もこの事には以前からお気づきになられていたそうです。
皮膚の病理組織検査によって「エーラス・ダンロス症候群(皮膚無力症)」と診断されました。【エーラス・ダンロス症候群(皮膚無力症)とは】
コラーゲンの合成または線維形成の異常によって皮膚の異常な伸展性と脆弱性を示すのが特徴的な遺伝性の病気です。簡単にいうと、皮膚がよく伸び、もろくて容易にさけてしまう病気です。犬・猫では非常にまれであるといわれています。
臨床徴候・皮膚伸展指数の測定・病理組織検査結果に基づき診断します。
特異的な治療はありません。屋内飼育し、他の動物から隔離することにより、外傷を避けるようにします。動物の扱いや保定は皮膚を傷つけないように細心の注意を払います。
この子は皮膚がさけたのは今回で3回目だったのですが、今までなぜ簡単に皮膚がさけてしまったのかわからなかったそうです。今回の診察によってこの子はエーラス・ダンロス症候群で皮膚がうすくてもろいため、自分で少し毛をひっぱっただけで容易に皮膚がさけてしまったことが判明しました。エーラス・ダンロス症候群は決して治る病気ではありませんが、今回診断がついたことによって、より皮膚を扱う際には注意が必要であることがわかりました。
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皮膚形成外科
本日は夜から東京都内で開催されている日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズの「皮膚形成外科」についての講義に参加してまいりました。
「動物の皮膚形成外科」とは主に外傷、熱傷、交通事故、術創離解、腫瘍摘出後などによる大幅な皮膚欠損を手術で治すことを指します。広範囲の皮膚がなくなると、そのままでは皮膚同士を縫合できなくなってしまいます。そのため、皮膚を別の場所から引っ張ってきたり(フラップ(皮弁)形成)、皮膚を別の場所から切除して移植(Skin graft・皮膚移植)します。今回はその方法についての講義でした。
一般診療においても特に猫ちゃんのケンカによる外傷や大きな腫瘍を摘出した後に皮膚が欠損してしまうことがあるので、実践的で勉強になりました。
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褥創(床ずれ)
本日は夜から東京都内で開催されている日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズの褥創についての講義に参加してまいりました。
褥創(床ずれ)は体の一部に「持続的な圧迫」が加わることで、その部分の皮膚や深部の組織の血行が阻害され、虚血性の壊死が生じることで引き起こされます。【褥創のできやすい部位】
横向きに寝たきりの場合には、肩関節、大腿骨の大転子、頬部(ピンクで塗った場所)に深い褥創が出来ます。また肘や膝、手首足首などの可動性のある関節突出部(緑で塗った場所)には摩擦により浅い褥創が出来ます。【褥創の管理方法】
褥創は「持続的な圧迫」が原因で生じるので、圧迫を解除することが重要です。*除圧について
低反発マットを使って圧迫を解除(除圧)します。昔はドーナツ型の褥創パッドを使用していましたが、今では褥創パッドの圧迫により褥創周囲の血行を悪化させ、より深い壊死や新たな褥創を作り出す危険性があるため、褥創に対して使うべきではないといわれています。*体位変換について
人の褥創対策では以前は2時間毎の体位変換が推奨されていましたが、最近では高機能マットなどによる除圧法の改善により、頻繁な体位変換は必要ないといわれています。体位変換により新たな褥創を作り出す危険性も指摘されています。動物の場合もマットによる除圧が適切にできている場合には体位変換は最小限で良いだろうといわれています。*創傷管理
消毒はせず、乾燥させず、創面とその周囲を清潔に保つ(褥創周囲の毛を刈り、生理食塩水または水で洗う)ことが重要です。昔は褥創の治療は、体位変換を頻繁に行い、褥創パッドを用い、消毒をして、ガーゼをあてて乾燥させるのが基本であり、今と真逆のことが行われてきました。医学も獣医学も昔は当然と思われていた治療法が、今になって否定されることがよくあります。日々進歩する獣医学を学び続けなければと思いました。
寝たきりで動けないことにより褥創が発生するので、再発を防ぐための一番の方法は寝たきりの状態を改善することです。しかし、寝たきりの子を活発に動かす事は困難であるため、褥創を根治させることは非常に難しいと言われていますが、なかには飼い主さんの努力によって治った子もいます。褥創でお困りの方はお気軽にご相談下さいね。
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湿潤療法
本日は夜から東京都内で開催されている日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズに参加してまいりました。
最近、創傷の治癒には湿潤環境が適しているとわかってきて、薬局にも傷を乾かさないための絆創膏が置かれるようになってきました。少し前までは傷は消毒して乾燥させ、ガーゼを当てて包帯で固定するのが一般的な治療法でしたが、創面を乾燥させると真皮や肉芽が乾燥・壊死し、創面を覆っている浸出液も乾燥して痂皮となり、壊死組織と共に細菌繁殖の培地になります。壊死組織や痂皮により上皮化も遅れるため、乾燥環境下では創傷の治癒が遅れることが明らかになってきました。