腫瘍科 記事一覧
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日本獣医がん学会に参加してまいりました
6月25~26日はお休みを頂き、日本獣医がん学会に参加してまいりました。
こちらの学会は1年に2回東京と大阪で開催され、腫瘍学に興味をもった大学6年生の時から1年に1回は参加するようにしています。
今回のメインテーマは頭頚部扁平上皮癌でした。
扁平上皮癌は犬猫の全身の様々な場所に発生しますが、頭頚部は好発部位になります。治療の第一選択は手術になるのですが、頭頚部は大きく切除しにくい場所になるため治療に苦慮することがあります。
この腫瘍の診断・治療方法について様々な先生方の講義を聴講することができて勉強になりました。
また、初日は人間のお医者さんの講義があり、人間の手術の動画をみながら説明して下さいました。動物の手術は見慣れているため目を背けてしまうことはありませんが、人間の手術をじっくりみるのは初めてだったため衝撃的で目を背けてしまいそうになりました。
その他、画像診断学、骨髄生検、リンパ腫の抗がん剤、疼痛管理など2日間かけて勉強することができました。今後の診療に役立てたいと思います。
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血腹とドレナージの勉強会に参加してまいりました
血腹とは外傷や腹腔内腫瘍などの破裂などにより腹腔内に血液が貯留している状態です。
当院にもお腹や胸にお水がたまっている(これらを腹水・胸水と呼びます)子が来院されることがあります。腹水や胸水はエコーやレントゲン検査で発見しますが、それが血液なのか、感染によるものか、腫瘍の転移によるものか、心臓病によるものかなど、たまる原因はエコーやレントゲンではわかりません。よって、まずは腹水や胸水を少しでも採取して検査し、液体がたまる原因を調べなければなりません。腹水・胸水がたまる原因によって治療方法が異なるため、腹水・胸水の検査により病気を診断することが重要になります。
今回のセミナーでは様々な血腹の症例をみることができ、また胸腔・腹腔へのドレナージの方法を知ることができたため勉強になりました。
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クリヨペン(凍結療法)を導入しました
クリヨペンとは手軽に凍結療法ができるよう開発された医療機器です。
凍結療法とは患部組織を凍結し、細胞を破壊させ、しこりを自然脱落させる方法です。簡単にいうとイボ取りになります。主に良性腫瘍が適応になります。
数十秒照射し、処置後1~2週間後に病変が残る場合には2回目、3回目の照射を行います。【クリヨペン(凍結療法)の特徴】
①全身麻酔が必要ないため、高齢動物や麻酔リスクが高い動物にも実施できる
②ピンポイント照射で正常組織への損傷が少なく安全性が高い
③手術とは違い、短時間で処置が終わり入院不要
④手術より安価処置をご希望の場合はご相談頂ければと思います。
2015年08月23日(日) 投稿者 hagiwara | 機器紹介, 治療例, 立川市マミー動物病院・設備, 腫瘍科
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学会発表(2015年 日本獣医がん学会)
7月4日(土)・5日(日)はお休みを頂き、都内で開催された「第13回日本獣医がん学会」に参加してまいりました。
今回のシンポジウムのテーマは「口腔内悪性黒色腫」で、2日目はまる1日、口腔内悪性黒色腫のセミナーでした。
午前中は口腔内悪性黒色腫の病理、外科、放射線治療、内科治療についての講義を聴講し、午後からは症例検討会でした。
今回はこの症例検討会で4年ぶりに学会発表をしてきました。
4年前とは違い、子育てをしながらの発表準備は想像していたより大変でした。
日々の診療・勉強・学会参加・子育てだけで手いっぱいなので、発表は難しいかなと思っていたのですが、発表することによって自分でもより深く勉強するし、アドバイスも頂くことができるかなと思い、発表することにしました。
学会発表するには過去の報告と比較する必要があるため、多くの論文を読む必要があります。
この論文が全て日本語であれば大変ではないのですが、今回の病気は珍しいため日本語で記載されたものがなく、多くの英語の論文を読まなければなりませんでした。
普段、英語を読む機会が少ないため、最初は読むのが苦痛でしたが、読むことにより知識が増えていき、もっと先が知りたいと思うようになり、楽しく読むことができました。
今回は子育てしながらの発表のため、余裕をみて3月から発表の準備をしていました。
結局、準備はギリギリになってしまいましたが、何とか無事発表を終えることができました。
準備は大変でしたが、発表することによってこの病気に対する知識が増えてよかったです。学会発表は大変ですが、準備段階で必死に勉強するため、成長できる良い機会だと思っています。
今後も定期的に学会に参加し、機会があったら発表したいと思います。 -
消化器型リンパ腫
先日は日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズの消化器型リンパ腫についての講義に参加してまいりました。
【猫の消化器型リンパ腫】
猫で一般的な消化管腫瘍
猫の消化管腫瘍の55%がリンパ腫
猫のリンパ腫の34%が消化器型リンパ腫
<臨床徴候>
下痢・嘔吐・体重減少・活動性低下・食欲低下・腹水・黄疸など
臨床徴候は非特異的です。
<病理組織学的検査・細胞診による分類>
リンパ腫と診断した場合、下記の3つに分類します。
型により治療方法・治療反応・予後が異なります。①大細胞性(=High/Intermediate-Grade・高悪性度・低分化型)
②小細胞性(=Low-Grade・低悪性度・高分化型)
③大顆粒型(=Large granular lymphocyte)<化学療法と反応性>
①大細胞性 ②小細胞性 ③大顆粒型 化学療法プロトコル 多剤併用 CHOP-based
プレドニゾロン +クロラムブシル
多剤併用 CHOP-based
完全寛解(CR)率 38~87% 56~96% 5% CRの症例の生存期間中央値 7~10ヵ月 19~29ヵ月 17日 消化器型リンパ腫はお腹の中の腫瘍のため外からはわかりにくく、診断は超音波検査や内視鏡検査で行います。特に高齢の猫ちゃんで上記症状がみられた場合には消化器型リンパ腫も疑い各種検査をされることをお勧めしております。
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インスリノーマ
1月26日、27日はお休みを頂いて、母校の麻布大学で開催された日本獣医がん学会に参加してまいりました。今回のシンポジウムはインスリノーマでした。
【インスリノーマ】
インスリノーマとはインスリン(血糖値を下げるホルモン)を分泌する膵臓β細胞の腫瘍です。腫瘍細胞による過剰なインスリン分泌によって低血糖になり様々な症状がみられます。ヒトではほとんど良性ですが、犬ではほとんどが悪性になります。<臨床症状>
発作・虚弱・虚脱・運動失調・筋肉の痙攣・沈鬱・多飲多尿・失神など
<挙動>
ほとんどが悪性腫瘍
転移性が高く、診断時に51%で転移があったという報告がある<診断>
低血糖と血中インスリン濃度の上昇
他の低血糖になる病気を除外
<治療>
①外科療法
第一選択となる。
罹患犬の10%以上で複数の腫瘍が認められる
術後中央生存期間は12.5カ月との報告がある
②内科療法
手術による摘出が不可能な場合や手術を行わない場合は内科療法が行われる
運動制限
高蛋白質・低炭水化物の食事を少量頻回給与
薬物療法(ステロイド・ジアゾキシド・オクトレオチド・ストレプトゾトシンなど)
今回、海外の先生がインスリノーマについて講義をされた後、各病院による症例発表がありました。基礎知識を復習する事ができ、また新しい知見もあり勉強になりました。
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播種性血管内凝固(DIC)
先週は腫瘍のセミナーに参加してきました。今回のセミナーはチャリティーレクチャー といって定期的に開催されており、参加費は東日本大震災の被災地の方への義援金になるそうです。
今回はDIC(播種性血管内凝固)についてご説明いたします。
【DIC(播種性血管内凝固)】
様々な基礎疾患に合併する全身の微小血栓を特徴とする病態です。
血栓の形成による臓器不全がもっとも大きな問題となり、しばしば出血傾向が認められます。
<DICの基礎疾患>
敗血症・急性白血病・固形癌・重症感染症・ショック・産科疾患・外傷・熱傷・急性膵炎・子宮蓄膿症など
<DICの臨床症状>
2大症状は臓器症状と出血症状
①臓器症状:虚血性変化によって引き起こされる様々な症状
腎臓→血尿、乏尿、無尿
中枢神経→意識障害、局所的な神経症状
消化管→急性潰瘍による下血、腹痛
肺→肺梗塞のための呼吸困難など
②出血症状
<DICの予後>
DICと診断された犬の死亡率は54%との報告がある
DICが確定してから治療をするのでは遅すぎるといわれており、できるだけ早期にDICを診断し、基礎疾患に対する治療を行うことが大切です。 -
生検
先日は日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズの生検についての講義に参加してまいりました。
生検については以前こちらで簡単にお話ししたことがありますが、今日はさらに詳しくお話いたします。
【生検】
「生検」とは主にしこりの診断をつけるために行う検査のことで、針生検、tru-cut生検、パンチ生検、切開・切除生検などがあります。①針生検(細胞診)
しこりに針をさし、針先にとれた細胞を顕微鏡で確認します。
<適応>
皮膚・皮下腫瘤・体腔内臓器の病変・貯留液
<長所>
迅速・簡易・安価・安全
<短所>
診断に限界がある②tru-cut生検(病理組織検査)
マッチ棒大くらいの組織を採材することができます。
針生検とは違い病理組織検査に提出することができます。
<適応>
皮下腫瘤・深部腫瘤
<長所>
迅速・簡易・安全
<短所>
標本の大きさ・コスト③パンチ生検(病理組織検査)
tru-cut生検よりさらに大きい組織を採材することができます。
先端にはこのようにするどい刃がついています。
採材する組織の量によってサイズを変更します。
<適応>
皮内や皮下腫瘤
<長所>
迅速・簡易・安価・安全 通常全身麻酔の必要なし
<短所>
標本の大きさと到達深度④切開生検・切除生検(病理組織検査)
<適応>
皮内・皮下の腫瘤 潰瘍化したあるいは壊死性の腫瘤に最適な手法
<長所>
大きな標本が採材可能 正常組織と腫瘤の境界部位の採材が可能
<短所>
通常、鎮静あるいは全身麻酔が必要
①→②→③→④になるほど採材できる組織は大きく、確定診断がでる可能性は高くなりますが、侵襲度も高くなります。診察後どの生検法がよいか検討しますが、私はまず侵襲性の低い①針生検をお勧めすることが多いです。針生検の検査結果によって次にどの生検にすすめばよいか検討しています。 -
日本獣医がん学会に参加してまいりました
7月7日、8日はお休みを頂いて、母校の麻布大学で開催された日本獣医がん学会に参加してまいりました。今回のシンポジウムは肥満細胞腫でした。
つい最近、別の先生が主催した肥満細胞腫のセミナーに参加したばかりですが、今回は新薬についての知見や様々な先生方の意見を聞くことができ勉強になりました。
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犬の甲状腺腫瘍
先日はハイパージョイントセミナーの甲状腺と上皮小体の手術についてのセミナーに行ってきました。
【犬の甲状腺腫瘍】
腫瘍全体の1.2~3.8%
高齢の犬に多く発生(中央年齢 9~11歳)
好発犬種:ビーグル・ボクサー・ゴールデン・レトリーバーなど
性差はない
悪性頻度が高く,腺癌が一般的
両側発生:25~33%
遠隔転移性は高い⇒初診時遠隔転移率:35~40%
甲状腺腫瘍は早期に発見すれば根治する可能性もありますが、大きくなってからだと食道や気管に浸潤し切除できなくなってしまいます。
首にしこりを触知しましたらお早めにご来院頂ければと思います。
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肺腫瘍
先日はハイパージョイントセミナーの胸腔疾患についてのセミナーに行ってきました。本日は肺腫瘍についてお話し致します。
【犬の肺腫瘍】
*全腫瘍中約1% 平均年齢10歳
*短頭種・都会・喫煙家庭犬に多発傾向
*組織学的種類:腺癌・扁平上皮癌など
*転移性:リンパ節転移12%
*予後
腺癌(11ヵ月)vs 扁平上皮癌(8ヵ月)
大きさ 100cm3以下(20ヵ月)vs 100cm3以上(8ヵ月)
リンパ節転移 なし(345日)vs あり(60日)
*臨床症状
診断時25~30%は無症状
咳(52%)・呼吸困難(24%)・無気力(18%)・体重減少(12%)
発熱(6.4%)・呼吸速拍(5%)
肺腫瘍は診断時に25~30%の症例で無症状なので、早期発見のために定期的に胸部X線検査をされることをお勧め致します。
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肥満細胞腫
【肥満細胞腫】
犬・猫ともによくみられる悪性腫瘍で、細胞内から放出される顆粒内物質によって局所の炎症、消化管潰瘍、血液凝固障害、手術創の治癒遅延、術後肺水腫などをおこすことがあります。
【犬の肥満細胞腫】
*発生頻度:皮膚腫瘍の約11%を占めているといわれています。
*好発犬種:ボクサー・ボストンテリア・パグ・ラブラドール・レトリーバーなど
*好発部位:皮膚約90%(体幹50%・四肢40%)・内臓約10%
*発生型:孤立性90% 多発性10%
【猫の肥満細胞腫】
*発生頻度:皮膚腫瘍の約20%を占めるといわれています。
*発生部位:内臓型50%(脾臓・腸など)・皮膚型
*頭部に多く、次に体幹と四肢に多い【治療】
外科療法・放射線療法・化学療法・分子標的薬・H1・2ブロッカー・ステロイドなど
今回は特に今注目されつつある「分子標的薬」について詳しくお話しを聴くことができ、非常に勉強になりました。 -
腫瘍になりやすい犬種
5月24日(木)は診察を6時までに短縮させて頂き、日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズの腫瘍診断についての講義に参加してまいりました。
2011年に過去20年間にアメリカの病院に来院した犬74556例の死因について調べた論文がでたそうです。
若齢犬は消化器疾患と感染症で、高齢犬は神経疾患と腫瘍疾患で死亡することが多いとの記載がありました。
またこの論文には悪性腫瘍で死亡する可能性が高い犬種トップ5がでています。
【悪性腫瘍で死亡する可能性が高い犬種トップ5】
①バーニーズ・マウンテンドック
②ゴールデン・レトリーバー
③スコティッシュ・テリア
④ブービエ・デ・フランダース
⑤ボクサー
上記の犬種は他の犬種に比べ腫瘍で死亡する可能性が高くなりますので、特に中高齢になりましたら定期的に健康診断を受けることをお勧め致します。
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リンパ腫
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ビスフォスフォネート
先日はオンラインセミナーで骨吸収抑制剤である「ビスフォスフォネート」についての講義をうけました。
【ビスフォスフォネート】
<作用>
骨破壊を抑制し、骨塩量を増進する作用があります。
また、直接的抗腫瘍作用(転移の抑制・癌細胞の浸潤抑制・血管新生抑制など)もあるといわれています。<適応>
原発または転移性骨腫瘍による痛みの軽減
高カルシウム血症
論文を検索してみるとヒトで使用した報告は多数でてくるのですが、動物ではまだわずかしか報告がありません。すごく高価なお薬ですが、動物においても効果があったという報告が徐々にでてきています。
ビスフォスフォネート製剤は何種類かでておりますが、「ゾメタ」という商品(成分:ゾレドロン酸)を使用したことがあります。
全く治療反応がみられない子もいましたが、症状が顕著に改善した子もいましたので、原発性骨腫瘍・転転移性骨腫瘍の症例や他の治療に反応しない高カルシウム血症の症例に対して使用する価値はあると思います。
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脾臓の血管肉腫
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下顎歯肉に発生した悪性エナメル上皮腫(下顎骨部分切除術)
6歳齢のラブラドール・レトリーバーの女の子が、10日前に気づいた左下顎のしこりを主訴に来院されました。
しこりは左下顎第2切歯~犬歯の歯肉にみられました。
周囲の歯はぐらついており、歯列異常が認められました。
わんちゃんの口腔内腫瘍は一般的に良性は約40%、悪性は約60%であるといわれています。
腫瘍の種類によって治療方法が異なるため、まずはしこりの一部を採材し、病理組織検査を行ったところ「悪性エナメル上皮腫」と診断されました。
「悪性エナメル上皮腫」はわんちゃんにまれにみられる悪性腫瘍で、以前ご紹介した口腔メラノーマに比べ遠隔転移性が低く、腫瘍が完全に切除できれば根治できる可能性もあります。しかし悪性腫瘍であるため、下顎骨を含めて切除しないとすぐに再発してしまう可能性が高いです。各治療法のメリット・デメリットを飼い主様にお話しし、ご相談の結果、腫瘍とともに下顎骨を切除することになりました(下顎骨部分切除術)。
【摘出した下顎骨】
病理組織検査に提出したところ、腫瘍は完全に切除できていると診断されました。
現在、術後1年3ヵ月が経過しておりますが、再発・転移は認められず、根治する可能性も十分考えられます。
口腔内腫瘍は早期発見・早期治療ができれば根治する可能性があります。しかし口腔内腫瘍は発見が遅れがちで、腫瘍が大きくなり奥方向や舌根部にまで浸潤してしまっている場合には、根治できる腫瘍も根治できなくなってしまいます。今回は、前方にできた腫瘍のため発見しやすかったのと、飼い主様が口腔内を定期的に観察して下さっていたのでこのような良い結果になったのだと思います。
口腔内にしこりがみられた場合にはお早めにご来院頂ければと思います。
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学会発表 in 相模原 (2011年がん学会)
7月9日(土)・10日(日)はお休みを頂き、母校の麻布大学で開催された「第5回日本獣医がん学会」に参加してまいりました。がん学会は年に2回、東京と大阪で開催されますが、東京の学会には卒業してから毎年かかさず参加しています。
今回のシンポジウムのテーマは「肺腫瘍」でした。同級生2人がシンポジウムで発表し、アドバイザーをしていました。何百人もの聴講者の前で自分の意見をはっきり言っていて、2人ともすごいな~と思いました。
1日目に私も発表してきました。「上顎下顎に発生した悪性黒色腫に対し外科療法・放射線療法・化学療法を行った犬の1例」と、今回も長い題名をつけてしまいました。聴講者が少ないせいか、あまり緊張しなくてよかったです。
今回は春から少しずつ発表の準備をしていました。発表することによって、再度カルテを見直したり、論文を読んだりしてこの病気に対する知識が増えました。
機会があったら、また学会発表したいです。
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リンパ腫のレスキュープロトコール
「リンパ腫」はわんちゃんに比較的多い悪性腫瘍です。リンパ腫には発生部位によって様々な型があり、なかでも一番多い「多中心型リンパ腫」では無治療での生存期間は4~6週といわれています。
リンパ腫の治療法には化学療法(抗がん剤)、外科療法、放射線療法がありますが、通常の第一選択は化学療法(抗がん剤)になります。
第一選択の抗がん剤は、
ドキソルビシン
ビンクリスチン
サイクロフォスファマイド
プレドニゾロン(ステロイド)
になります。
上記抗がん剤がすでに効かなくなったリンパ腫に対して実施される抗がん治療をレスキュープロトコールといいます。
今回、第一選択の抗がん剤に対し反応がみられなくなってしまったリンパ腫のわんちゃんに対し、レスキュープロトコールを行うことによって腫瘍の縮小がみられたためご紹介させて頂きます。
【症例】
パグ メス 3歳
「リンパ腫治療で様々な抗がん剤(ドキソルビシン・ビンクリスチン・サイクロフォスファマイド・メトトレキセート・L-アスパラギナーゼ・プレドニゾロン)を使用したが反応しなくなり腫瘍が大きくなってしまった。昨日から頚部が腫れて呼吸が苦しそう。」との主訴で来院されました。
全身のリンパ節がかなり大きくなっており、頚部は腫脹し浮腫がみられました。
まだ3歳なので若々しく、名前を呼ぶといつも顔を傾けてくれるかわいいわんちゃんです。
すでに第一選択の抗がん剤に対し反応がなくなっているため、各種レスキュープロトコールを提示いたしました。
【各種レスキュープロトコール】
現在、様々なレスキュープロトコールが報告されています。下記プロトコールの詳細(用量・副作用など)は日本語で詳しく記載された論文はないため、海外文献を読まなければなりません。このような時、英語が母国語だったらよいのになと思います。
薬剤
症例数
(例)
反応率
(%)
完全寛解率
(%)
反応中央値
(日)
44
41
30
―
15
47
47
―
43
27
7
86
117
65
31
61
54
62
44
61
31
87
52
63
57
35
23
83(CR)
25(PR)
49
41
41
129
それぞれの利点・欠点、副作用、投与回数などについてご説明させて頂いたところ、L-アスパラギナーゼ+ロムスチンプロトコールを選択されました。
このプロトコールでは
L-アスパラギナーゼ
ロムスチン
を併用します。
投与したところ、翌週には全身のリンパ節はかなり小さくなり、呼吸はだいぶ楽になりました。
投与前までは呼吸困難で夜深く眠れませんでしたが、ぐっすり睡眠をとることができるようになりました。
この子は、みんなに「かわいい」といわれるのが大好きで、カメラ撮影も大好きだそうです。
少しでも良い状態を保つことができ、飼い主様やお家のわんちゃんと楽しい生活を送ることができればと思います。
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胸水・胸腔内腫瘍の画像診断(レントゲン・超音波診断)
2月16日は東京都内で開催されている日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズの「リンパ節、胸腔、腹腔の超音波診断、超音波ガイド下生検」についての講義に院長と参加してまいりました。今回は胸水・胸腔内腫瘍の画像診断(レントゲン・超音波診断)についてお話させて頂きます。
【胸水・胸腔内腫瘍の画像診断(レントゲン・超音波診断)】
★レントゲン検査→液体は白く空気は黒くうつります。
★超音波検査(エコー検査)→液体は黒くうつりますが、空気はよくうつりません。肺は酸素を交換するところで空気がたくさんある臓器なので、基本的にはよくうつらない臓器になります。しかし、胸腔内に液体が溜まっていると液体が黒くうつるため、肺や胸腔内の腫瘍などがよくみえるようになります。
【実際の症例】
★正常猫★
<胸部レントゲン検査>
心臓は血液が溜まっているため白くうつります。肺は空気が入っているため黒くうつります。
★胸水が貯留している猫★
<胸部レントゲン検査>
レントゲンで黒いはずの肺が白くうつっています。このような時は胸腔内に水が溜まっている(胸水)か、腫瘍の存在を疑います。
<超音波(エコー)検査>
胸水が貯留している時は、より詳しい精査のために胸腔の超音波検査を行います。エコーでは液体は黒くうつるので胸水は黒くうつります。超音波検査では、胸水貯留の程度や場所、腫瘍の有無などを確認します。
腫瘍がみつかりました。
超音波下で針生検したところ、「縦隔型リンパ腫」という悪性腫瘍でした。
★胸腔内に腫瘍がある猫★
<胸部レントゲン検査>
心臓の頭側に腫瘍が存在しています。
<超音波(エコー)検査>
超音波検査では内部に嚢胞を含んでいることがわかります。
超音波下で針生検したところ、胸腺腫疑いでした。
胸腔内のしこりや胸水の生検は超音波下で行うとより安全に行うことができます。画像診断(レントゲン・エコー)のみではしこりの診断名はつかないため、まずは針生検をお勧めしています。
ここ1年、胸水が貯留していたり、胸腔内に腫瘍がある子が立て続けに来院なさいました。呼吸困難に陥っている子が多いため、興奮させないように慎重に検査を行わなければなりません。
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犬の乳腺腫瘍
10歳のヨーキーの女の子が、乳腺のしこりを主訴に来院されました。今までの経過はこちらになります。
あまりにもしこりが大きくなってしまったので、歩くのも大変になってしまったそうです。
大きいしこりは2か所ですが、よく触診するとしこりは合計6個存在しました。
飼い主様とご相談した結果、状態が安定してから手術をすることにしました。
<摘出した乳腺>
摘出したしこりは、病理検査会社に提出します。
病理検査をする目的は、
①腫瘍の診断名
②悪性腫瘍だった場合、悪性度はどのくらいか
③腫瘍が完全に切除できているか
→悪性腫瘍はカニの足のように根をはりますので、表面だけ摘出しても摘出しきれていないことがあります。
④脈管内に腫瘍細胞の浸潤がないか→脈管内浸潤があると今後全身転移しやすいです。
⑤リンパ節転移がないかどうか→転移していると今後全身転移しやすいです。
などを調べるためです。
病理検査結果では2つは悪性腫瘍、4つは良性腫瘍と診断され、腫瘍は完全切除できていました。
ばんざいすると乳腺をよく観察できます。
すっかりきれいになって、よく歩けるようになりました。
わんちゃんの乳腺腫瘍は女の子の腫瘍としては最も多く(52%)、良性が50%、悪性が50%であり、約50%は多発性であるといわれています。
よって乳腺にしこりができた時は、早めに切除生検することをお勧めしています。
特に悪性腫瘍だった場合、下記の表のように腫瘍が大きくなればなるほど予後が悪くなるからです。
<腫瘍のサイズと再発率・転移率>
12ヵ月
24ヵ月
3cm未満
30%
40%
3cm以上
70%
80%
特に女の子のわんちゃんは定期的に乳腺を触診し、しこりがないかどうか確認することが大切です。基本的にわんちゃんの乳頭は左右に5個ずつで合計10個ついています。しこりができた場合は早期発見・早期治療が大切ですので、お早めにご来院ください。
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骨肉腫
こんにちは。獣医師の萩原です。7月10日(土)11日(日)はお休みを頂き、日本獣医がん学会に参加してまいりました。がん学会は1年に2回、夏は神奈川、冬は大阪で開催され、できる限り参加するようにしています。今回のメインテーマは「骨腫瘍」でした。今回は骨腫瘍の中でも最も多い腫瘍である「骨肉腫」についてご説明させて頂きます。
【骨肉腫】
わんちゃんの骨肉腫は大型犬の前肢に多発し(後肢の約2倍)、橈骨遠位端と上腕骨近位端が2大好発部位とされています。
遠隔転移率が高く、断脚術のみでの術後生存期間中央値は4ヵ月、1年生存率は10%と極めて低いといわれています。
【わんちゃんの骨肉腫】
<発生率>
全腫瘍中2~7%(骨格腫瘍の85%)
<発生年齢>
2歳と7歳(二相性の発生ピーク)(18~24ヵ月齢→15%)
<好発犬種>
大型犬(体重10kg以下は5%未満)
<性差>
なし
<発生因子>
外傷性・遺伝性など
<好発部位>
体軸(25%)(下顎>上顎>脊椎>頭蓋骨>肋骨>他)
四肢(75%)骨幹端>骨幹
2/3が前肢→橈骨遠位・上腕骨近位に多い
1/3が後肢→大腿骨遠位・脛骨近位に多い
<発生状況>
局所侵襲性が強い
リンパ節浸潤はまれ
遠隔転移性が強い
90%以上が初診時に微細転移巣があるといわれている。
関節を超えることまれ
<予後>
断脚術のみ→中央生存期間110日(4ヵ月)・1年生存率10%
断脚術+抗がん剤→中央生存期間6ヵ月~1年・1年生存率50%
【猫ちゃんの骨肉腫】
<発生率>
非常にまれ
<好発年齢>
10.2歳
<発生部位>
前肢<後肢(前肢の2倍)
体軸骨<長骨(体軸の2倍)
<発生状況>
80~90%が悪性腫瘍
犬より低侵襲性・低転移性
<予後>
断脚のみで中央生存期間2年
<性差>
なし
四肢の骨肉腫に対する断脚手術は根治目的以外に残された期間の生命の質を改善する対症治療としての意義も高く、骨肉腫の患肢を放置した場合には、腫瘍による自潰・腫脹・疼痛など飼い主様が見ていられない状態に陥ることが少なくありません。
足を取ってしまうのは残酷なようにみえるかもしれませんが、腫瘍の足を残すことによって自潰、疼痛がひどくなり、苦しむことになるので、わんちゃんにとっては足がない方が快適に過ごせます。私自身、骨肉腫で断脚した子を何例もみていますが、3本足でも上手に歩けるようになることがほとんどです。
骨肉腫の臨床症状は患肢跛行・患部の熱感・急速な患部腫脹・硬固な腫瘤・激しい疼痛などになります。このような症状がみられた場合はお早めにご相談ください。
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抗がん剤(化学療法)
この子は以前、ブログでご紹介した小腸腺癌を摘出した猫ちゃんです。現在、術後4ヵ月になります。
【術前】
【術後4ヵ月】
お腹の中の腫瘍なので、良くなったかどうかは外見ではわかりにくいのですが、表情も変わり、明らかに元気になったそうです。術前の体重は2.6kgだったのですが、術後4ヵ月がたった現在では4.0kgになりました。術前までの半年間は毎日吐いていたのですが、現在では嘔吐もなくなり順調に経過しています。
この子は腫瘍がリンパ節に浸潤していたため、術後、抗がん剤をはじめました。現在、1ヵ月に1回、「カーボプラチン」という抗がん剤を投与しており、今回、4回目の投与が終わりました。
【カーボプラチン】
白金化合物に分類される抗がん剤です。「抗がん剤」というと髪が抜けたり、嘔吐したりと副作用が怖いイメージがあるかもしれませんが、この抗がん剤は副作用はまれであり、わんちゃん・ねこちゃんともに非常に使いやすい抗がん剤の1つになります。
成分が白金(プラチナ)のため、昔は非常に高価で使いにくかったそうです。今は昔に比べると安価になって、わんちゃん・ねこちゃんでも一般的に使うようになってきました。
まれに嘔吐(軽度)・骨髄毒性などの副作用がみられることがありますが、投与前に血液検査で内臓の状態を把握しておけば、ほとんどの子で強い副作用がみられることはありません。万が一副作用がでた場合もすぐに対応できればさほど心配することはありません。
この子も抗がん剤による副作用は一切でず、逆に毎回抗がん剤投与直後に特に元気になるそうです。
今後も元気に暮らせるお手伝いができればと思っています。
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柴犬の上顎下顎に発生した口腔メラノーマ(悪性黒色腫)
11歳齢の柴犬の男の子が、1ヵ月前に気づいた左上顎のしこりが急速に大きくなっているとのことで来院されました。
しこりは左上顎歯肉に存在し、表面は自潰、出血しています。
わんちゃんの口腔内腫瘍は一般的に良性は約40%、悪性は約60%であるといわれています。
この子の場合もしこりが良性か悪性か、悪性であったらどんな腫瘍なのかを診断するために、まずはしこりの一部を採材し、病理組織検査を行ったところ「非上皮性悪性腫瘍(メラノーマ疑い)」と診断されました。非常に悪性度が強い腫瘍であるため、下の骨まで一緒に切除しないとすぐに再発してしまいます。そのため腫瘍とともに上顎骨を切除しました(上顎骨部分切除術)。
術後の病理組織検査では「メラノーマ(悪性黒色腫)」と診断されました。メラノーマはわんちゃんの口腔内悪性腫瘍の中でも最も悪性度が高く、周囲組織や骨への浸潤性が非常に強く、転移性の高い悪性腫瘍です。
術後、再発・転移を抑えるため、抗癌剤を開始しました。こちらも病理組織検査を行ったところ、上顎のしこりと同様、メラノーマでした。メラノーマは通常1箇所に発生する腫瘍であり、別の場所にできてしまうことはまれです。こちらも腫瘍とともに下顎骨を切除しました。(下顎骨部分切除術)
「上顎も下顎も摘出してしまって、ご飯を食べることはできるのだろうか?」と疑問に持たれる方もいらっしゃるかと思いますが、ほとんどのわんちゃん、ねこちゃんでは顎がなくても上手にごはんを食べ、水を飲むことができるようになります。
その後、再発・転移ともになく、順調だったのですが、上顎骨部分切除術から3ヵ月半後に再発してしまいました。私の出身校で腫瘍の研修先でもあった麻布大学附属動物病院にご紹介し、CT撮影をしてもらいました。
CT撮影後、放射線療法を行いました。わんちゃんの場合、CT撮影、放射線療法ともに全身麻酔下で行います。
メラノーマは放射線療法への反応が良い腫瘍の1つです。現在、放射線療法後1ヵ月たちますが、腫瘍は縮小しています。
口腔メラノーマは無治療での中央生存期間が約2ヵ月といわれており、予後が非常に悪い悪性腫瘍ですが、この子は治療を開始してから半年が経過しています。オーナー様が非常に献身的で、この子も治療によく耐えてがんばっているので、このような良い結果に結びついているのだと思います。
口腔内にできた腫瘍は早期発見・早期治療ができれば根治できる腫瘍もありますが、発見が遅れがちです。気づいた時には手術もできないくらい大きくなってしまっているケースも少なくありません。定期的に口の中を観察し、しこりがないか確認してあげることが大切です。少しでも異常がみられた場合はお早めにご相談ください。
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腫瘍診断・治療について
当院では昨今わんちゃん、ねこちゃんで増えつつある腫瘍疾患に力をいれております。今回は腫瘍疾患の診断・治療についてご説明させて頂きます。
がん(悪性腫瘍)といっても進行度に応じて根治可能で治せるがんもあれば、治せないがんもあります。また根治不可能ながんでも、治療することにより症状が緩和されることがあります。【がんの臨床的病期】
<1期>
がんが限局し、完全な外科的切除や補助的化学療法などにより根治可能と思われる段階。
治療目的:がんを治すこと→積極的な外科治療や抗癌剤療法を勧めます。
<2期>
がんの完全な外科切除など根治的治療は不可能だが、全身状態が比較的良好で抗癌剤の投与や対症的手術により良好なQOL(生命・生活の質)が期待できる段階。
治療目的:がんの増大や転移などを抑制し、がんと共存して良好なQOLを維持すること。
<3期>
遠隔転移等による症状が出現した末期がんの段階。
治療目的:一般的な対症療法により、苦痛を軽減すること。【腫瘍診断の進め方】
1. 問診:年齢・病歴・腫瘤(しこり・マス)の発現時期・増大傾向・過去の治療歴の有無と反応。
2. 視診・触診:腫瘤の大きさ・色調・周囲への浸潤性・所属リンパ節の大きさ・硬さ・固着の有無。
3. 細胞診:細い針で腫瘤を刺し、採取された細胞を顕微鏡で観察します。良性悪性の判定、腫瘍の種類がわかることがあります。
4. レントゲン・超音波検査:腫瘤の構造や周囲組織への影響・肺や肝臓などへの遠隔転移の有無。他、心臓、肺、肝臓、腎臓、骨などの併発疾患の読影。
5. 血液検査:重要諸臓器機能や全身状態を評価。腫瘍随伴症候群の有無。
*腫瘍診断はがんの進行度と部位・症例の全身状態を十分に把握することが重要であるため、レントゲン・超音波検査・血液検査など、一通りの検査が必要になります。【腫瘍治療】
それぞれの治療法にも利点・欠点があります。また、腫瘍の種類によって効果のある治療法が異なってきます。腫瘍の種類や進行度によって様々な治療法をご提案させて頂きます。1. 外科療法
*利点:腫瘍減容積効果は最大。麻酔は1回。
*欠点:解剖学的・器質的欠損。強い侵襲。2. 放射線療法
*利点:解剖学的・器質的温存。外科困難な部位(脳・心臓など)でも可能。化学療法より細胞致死効果大。
*欠点:頻回の全身麻酔が必要。装置・人員が必要。3. 化学療法(抗癌剤):腫瘍の種類によって使用する抗癌剤を選びます。
*利点:装置・人員が不必要。散布された腫瘍細胞に有効。
*欠点:減容積効果低い。頻回の治療が必要。この3つの治療法が腫瘍治療の3本柱になります。