治療例 記事一覧
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クリヨペン(凍結療法)を導入しました
クリヨペンとは手軽に凍結療法ができるよう開発された医療機器です。
凍結療法とは患部組織を凍結し、細胞を破壊させ、しこりを自然脱落させる方法です。簡単にいうとイボ取りになります。主に良性腫瘍が適応になります。
数十秒照射し、処置後1~2週間後に病変が残る場合には2回目、3回目の照射を行います。【クリヨペン(凍結療法)の特徴】
①全身麻酔が必要ないため、高齢動物や麻酔リスクが高い動物にも実施できる
②ピンポイント照射で正常組織への損傷が少なく安全性が高い
③手術とは違い、短時間で処置が終わり入院不要
④手術より安価処置をご希望の場合はご相談頂ければと思います。
2015年08月23日(日) 投稿者 hagiwara | 機器紹介, 治療例, 立川市マミー動物病院・設備, 腫瘍科
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内視鏡による胃内異物摘出術
5ヵ月齢のわんちゃんが肉団子を串ごと食べてしまったとの主訴で来院されました。
まずはX線造影検査を行ったところ、胃内に串が残存していることが疑われました。
X線検査にて異物はうつることもありますが、うつらないこともあります。
このまま胃内に竹串が残ったままだと胃潰瘍・胃穿孔をおこし命に関わることもあるため、飼い主様と相談した結果、まずは内視鏡による異物摘出を試みたところ、胃内に竹串がみられました。
胃粘膜には発赤・出血痕がみられ、竹串が胃粘膜を刺激してしまった可能性が考えられました。
内視鏡によって食道内・胃内異物を手術せずに摘出できることがあります。摘出できない場合は手術が必要になります。
当院では異物を食べてしまった子に対しては、吐かせることができる異物の場合、催吐処置をすることがありますが、尖がったものなど吐かせることができない異物の場合はまずは内視鏡にて摘出を試みて、摘出が難しいようでしたら飼い主様と手術を行うか相談しております。
今回のように尖がった物質は催吐させることによって食道を穿孔させてしまう可能性があるため催吐処置をすることはできません。内視鏡または外科手術が第一選択となります。
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クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
7歳齢のシーズーの男の子が歩行を嫌がるとの主訴で来院されました。
X線検査にて明らかな骨・関節の異常は認められませんでしたが、肉球には石灰沈着がみられ、一部出血が認められました。
その他、多飲多尿も認められたため特にクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)を疑い、全身精査を行うことになりました。
超音波検査にて左副腎は8.7mm、右副腎は7.8mmであり、左右副腎ともに腫大が認められました。(正常のわんちゃんの副腎は6mm以下になります)
ACTH刺激試験にてコルチゾールはpreが4.5、postが65.8でした。(postが25以上だった場合、クッシング症候群を疑います。)
以上の所見よりクッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)を疑い、各種治療オプションを提示したところ、飼い主様は飲み薬による治療を選択されました。【クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)】
副腎皮質から分泌されるホルモンの過剰分泌によっておこる病気です。<原因>
下垂体腫瘍(80%)または副腎腫瘍(20%)<症状>
多飲多尿、多食、皮膚の菲薄化、左右対称性の脱毛、肥満、腹部膨満、発作など<治療>
内科療法・放射線療法・外科療法があります。各々の治療法においてメリット・デメリットがございますので飼い主様と相談の上、治療方針を決めていきます。 -
腸閉塞(腸内異物)
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下顎歯肉に発生した悪性エナメル上皮腫(下顎骨部分切除術)
6歳齢のラブラドール・レトリーバーの女の子が、10日前に気づいた左下顎のしこりを主訴に来院されました。
しこりは左下顎第2切歯~犬歯の歯肉にみられました。
周囲の歯はぐらついており、歯列異常が認められました。
わんちゃんの口腔内腫瘍は一般的に良性は約40%、悪性は約60%であるといわれています。
腫瘍の種類によって治療方法が異なるため、まずはしこりの一部を採材し、病理組織検査を行ったところ「悪性エナメル上皮腫」と診断されました。
「悪性エナメル上皮腫」はわんちゃんにまれにみられる悪性腫瘍で、以前ご紹介した口腔メラノーマに比べ遠隔転移性が低く、腫瘍が完全に切除できれば根治できる可能性もあります。しかし悪性腫瘍であるため、下顎骨を含めて切除しないとすぐに再発してしまう可能性が高いです。各治療法のメリット・デメリットを飼い主様にお話しし、ご相談の結果、腫瘍とともに下顎骨を切除することになりました(下顎骨部分切除術)。
【摘出した下顎骨】
病理組織検査に提出したところ、腫瘍は完全に切除できていると診断されました。
現在、術後1年3ヵ月が経過しておりますが、再発・転移は認められず、根治する可能性も十分考えられます。
口腔内腫瘍は早期発見・早期治療ができれば根治する可能性があります。しかし口腔内腫瘍は発見が遅れがちで、腫瘍が大きくなり奥方向や舌根部にまで浸潤してしまっている場合には、根治できる腫瘍も根治できなくなってしまいます。今回は、前方にできた腫瘍のため発見しやすかったのと、飼い主様が口腔内を定期的に観察して下さっていたのでこのような良い結果になったのだと思います。
口腔内にしこりがみられた場合にはお早めにご来院頂ければと思います。
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犬の脱毛症X(アロペシアX)
ポメラニアン 去勢オス 4歳齢
主訴:3ヶ月程前より被毛が薄くなってきた。
疾患の鑑別のため各種皮膚検査、血液検査、画像検査、尿検査、皮膚生検(皮膚の一部を切除し、組織学的に検査をする)を行いました。
毛根の拡大図:休止期毛ばかりがみとめられました。
局所麻酔下でパンチ生検を行いました。
病理検査所見では重度の毛包萎縮が見られました。
検査所見より、感染症、副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症を否定し、脱毛症X(アロペシアX)を疑いました。
治療としてメラトニンの投与を開始しました。
数ヶ月後、発毛傾向がみられました。
アロペシアXとは成犬になってから発症することのある、進行性、両側対称性、非炎症性、非掻痒性の脱毛疾患で、ポメラニアン、プードル、ハスキーなどの北欧犬種に好発します。
副腎という臓器の性ホルモン産生の不均衡が原因として示唆されていますがまだはっきりとしていないため、脱毛症Xという疾患名で呼ばれています。
治療としては去勢手術、メラトニン、トリロスタン、成長ホルモンなどが報告されていますがどれも確実に効果がみられるというわけではなく、改善後に再発する事もありますので慎重に経過を観察する必要があります。
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皮膚糸状菌症(カビ)
先日は東京都内で開催されている日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズ の「皮膚糸状菌症」についての講義に参加してまいりました。
【皮膚糸状菌症】
<原因>
犬・猫で皮膚糸状菌症の原因となる病原体は、主に以下の3つの菌種になります。
①Microsporum canis
犬で70%・猫で90%の原因菌。ヒトにも感染することが多いです。
②Microsporum gypseum
犬で20%の原因菌。土壌生息菌のため、口・肢端などに好発します。
③Trichophyton mentagrophytes
<症状>
多様な病変を示します。
好発部位は顔面・耳介・前肢・頚部・背側・尾・後肢など幅広いです。
紅斑・丘疹・膿疱・脱毛はみられますが、痒みは少ないか全くありません。
<診断・検査>
①ウッドライト試験:M.canisの50%が陽性になります。
②被毛・角質の直接鏡検
③培養
④DTM培地
毛を抜いて培地に置きます。糸状菌に感染していた場合、黄色い培地が赤色に変わり、白綿毛状のコロニーがでてきます。
<治療>
①患者への治療
(1) 抗真菌剤(ケトコナゾール・イトラコナゾールなど)の投与
(2) 毛刈り(特に長毛種)
(3) 外用療法(マラセブシャンプーなど)
②同居動物・人間の治療
ヒトにもうつることがあるため、注意が必要です。
③環境の改善
動物の寝具の廃棄・消毒
【実際の症例】
子猫ちゃんです。
両耳が脱毛しているとの主訴で来院されました。
診察台の上では皮膚が痒いのか、ずっと掻いたりなめたりしていました。
毛を培養したところ、培地が赤くなり白綿毛状のコロニーがはえてきました。
顕微鏡で検査したところ大分生子がみられたため、皮膚糸状菌症と診断し治療を開始いたしました。
<治療後>
だいぶ毛が生えてきました。
皮膚糸状菌症は典型的な皮膚症状がないため、見逃されがちです。皮膚炎がみられた場合、一度は除外しておくべきだと思われます。
生後半年がたちました。
大きくなりました。小顔で、顔がシャープできりっとしてます。男らしいです。
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リンパ腫のレスキュープロトコール
「リンパ腫」はわんちゃんに比較的多い悪性腫瘍です。リンパ腫には発生部位によって様々な型があり、なかでも一番多い「多中心型リンパ腫」では無治療での生存期間は4~6週といわれています。
リンパ腫の治療法には化学療法(抗がん剤)、外科療法、放射線療法がありますが、通常の第一選択は化学療法(抗がん剤)になります。
第一選択の抗がん剤は、
ドキソルビシン
ビンクリスチン
サイクロフォスファマイド
プレドニゾロン(ステロイド)
になります。
上記抗がん剤がすでに効かなくなったリンパ腫に対して実施される抗がん治療をレスキュープロトコールといいます。
今回、第一選択の抗がん剤に対し反応がみられなくなってしまったリンパ腫のわんちゃんに対し、レスキュープロトコールを行うことによって腫瘍の縮小がみられたためご紹介させて頂きます。
【症例】
パグ メス 3歳
「リンパ腫治療で様々な抗がん剤(ドキソルビシン・ビンクリスチン・サイクロフォスファマイド・メトトレキセート・L-アスパラギナーゼ・プレドニゾロン)を使用したが反応しなくなり腫瘍が大きくなってしまった。昨日から頚部が腫れて呼吸が苦しそう。」との主訴で来院されました。
全身のリンパ節がかなり大きくなっており、頚部は腫脹し浮腫がみられました。
まだ3歳なので若々しく、名前を呼ぶといつも顔を傾けてくれるかわいいわんちゃんです。
すでに第一選択の抗がん剤に対し反応がなくなっているため、各種レスキュープロトコールを提示いたしました。
【各種レスキュープロトコール】
現在、様々なレスキュープロトコールが報告されています。下記プロトコールの詳細(用量・副作用など)は日本語で詳しく記載された論文はないため、海外文献を読まなければなりません。このような時、英語が母国語だったらよいのになと思います。
薬剤
症例数
(例)
反応率
(%)
完全寛解率
(%)
反応中央値
(日)
44
41
30
―
15
47
47
―
43
27
7
86
117
65
31
61
54
62
44
61
31
87
52
63
57
35
23
83(CR)
25(PR)
49
41
41
129
それぞれの利点・欠点、副作用、投与回数などについてご説明させて頂いたところ、L-アスパラギナーゼ+ロムスチンプロトコールを選択されました。
このプロトコールでは
L-アスパラギナーゼ
ロムスチン
を併用します。
投与したところ、翌週には全身のリンパ節はかなり小さくなり、呼吸はだいぶ楽になりました。
投与前までは呼吸困難で夜深く眠れませんでしたが、ぐっすり睡眠をとることができるようになりました。
この子は、みんなに「かわいい」といわれるのが大好きで、カメラ撮影も大好きだそうです。
少しでも良い状態を保つことができ、飼い主様やお家のわんちゃんと楽しい生活を送ることができればと思います。
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胸水・胸腔内腫瘍の画像診断(レントゲン・超音波診断)
2月16日は東京都内で開催されている日本臨床獣医学フォーラム・東京レクチャーシリーズの「リンパ節、胸腔、腹腔の超音波診断、超音波ガイド下生検」についての講義に院長と参加してまいりました。今回は胸水・胸腔内腫瘍の画像診断(レントゲン・超音波診断)についてお話させて頂きます。
【胸水・胸腔内腫瘍の画像診断(レントゲン・超音波診断)】
★レントゲン検査→液体は白く空気は黒くうつります。
★超音波検査(エコー検査)→液体は黒くうつりますが、空気はよくうつりません。肺は酸素を交換するところで空気がたくさんある臓器なので、基本的にはよくうつらない臓器になります。しかし、胸腔内に液体が溜まっていると液体が黒くうつるため、肺や胸腔内の腫瘍などがよくみえるようになります。
【実際の症例】
★正常猫★
<胸部レントゲン検査>
心臓は血液が溜まっているため白くうつります。肺は空気が入っているため黒くうつります。
★胸水が貯留している猫★
<胸部レントゲン検査>
レントゲンで黒いはずの肺が白くうつっています。このような時は胸腔内に水が溜まっている(胸水)か、腫瘍の存在を疑います。
<超音波(エコー)検査>
胸水が貯留している時は、より詳しい精査のために胸腔の超音波検査を行います。エコーでは液体は黒くうつるので胸水は黒くうつります。超音波検査では、胸水貯留の程度や場所、腫瘍の有無などを確認します。
腫瘍がみつかりました。
超音波下で針生検したところ、「縦隔型リンパ腫」という悪性腫瘍でした。
★胸腔内に腫瘍がある猫★
<胸部レントゲン検査>
心臓の頭側に腫瘍が存在しています。
<超音波(エコー)検査>
超音波検査では内部に嚢胞を含んでいることがわかります。
超音波下で針生検したところ、胸腺腫疑いでした。
胸腔内のしこりや胸水の生検は超音波下で行うとより安全に行うことができます。画像診断(レントゲン・エコー)のみではしこりの診断名はつかないため、まずは針生検をお勧めしています。
ここ1年、胸水が貯留していたり、胸腔内に腫瘍がある子が立て続けに来院なさいました。呼吸困難に陥っている子が多いため、興奮させないように慎重に検査を行わなければなりません。
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犬の乳腺腫瘍
10歳のヨーキーの女の子が、乳腺のしこりを主訴に来院されました。今までの経過はこちらになります。
あまりにもしこりが大きくなってしまったので、歩くのも大変になってしまったそうです。
大きいしこりは2か所ですが、よく触診するとしこりは合計6個存在しました。
飼い主様とご相談した結果、状態が安定してから手術をすることにしました。
<摘出した乳腺>
摘出したしこりは、病理検査会社に提出します。
病理検査をする目的は、
①腫瘍の診断名
②悪性腫瘍だった場合、悪性度はどのくらいか
③腫瘍が完全に切除できているか
→悪性腫瘍はカニの足のように根をはりますので、表面だけ摘出しても摘出しきれていないことがあります。
④脈管内に腫瘍細胞の浸潤がないか→脈管内浸潤があると今後全身転移しやすいです。
⑤リンパ節転移がないかどうか→転移していると今後全身転移しやすいです。
などを調べるためです。
病理検査結果では2つは悪性腫瘍、4つは良性腫瘍と診断され、腫瘍は完全切除できていました。
ばんざいすると乳腺をよく観察できます。
すっかりきれいになって、よく歩けるようになりました。
わんちゃんの乳腺腫瘍は女の子の腫瘍としては最も多く(52%)、良性が50%、悪性が50%であり、約50%は多発性であるといわれています。
よって乳腺にしこりができた時は、早めに切除生検することをお勧めしています。
特に悪性腫瘍だった場合、下記の表のように腫瘍が大きくなればなるほど予後が悪くなるからです。
<腫瘍のサイズと再発率・転移率>
12ヵ月
24ヵ月
3cm未満
30%
40%
3cm以上
70%
80%
特に女の子のわんちゃんは定期的に乳腺を触診し、しこりがないかどうか確認することが大切です。基本的にわんちゃんの乳頭は左右に5個ずつで合計10個ついています。しこりができた場合は早期発見・早期治療が大切ですので、お早めにご来院ください。
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糖尿病(Ⅲ型糖尿病・二次性糖尿病)
10歳齢のヨーキーの女の子が、乳腺のしこりを主訴に来院されました。食欲が落ち、多飲多尿(お水をたくさんのみ、おしっこをたくさんすること)もあるようです。
各種検査を行い、「糖尿病性ケトーシスまたはケトアシドーシス」・「乳腺腫瘍」と診断しました。
ここで糖尿病について、簡単にお話しいたします。
<わんちゃんの糖尿病について>———————————————————————-
膵臓から分泌されるインスリンの作用不足に基づく代謝性疾患です。インスリンは生体で血糖値を下げる唯一のホルモンで、膵臓のランゲルハンス島B細胞で産生・分泌されます。インスリンの作用が不足すると糖・蛋白質・脂質代謝が障害され、筋肉や脂肪組織の糖利用率が低下し、血液中の糖が増え(高血糖)、尿中に糖が検出されます。
糖尿病はⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型糖尿病に分類されます。
*Ⅰ型糖尿病(インスリン依存性(IDDM))
β細胞からインスリンがでない。インスリン治療を生涯必要とする。
*Ⅱ型糖尿病(インスリン非依存性(NIDDM)):肥満猫に多い。
β細胞からインスリンがでているが、インスリンが効きにくくなっている。
*Ⅲ型糖尿病(ホルモン性・二次性糖尿病)
他の病気(副腎皮質機能亢進症・発情後(血中プロゲステロン濃度が上昇するため)など)が引き金になっておこる糖尿病。早期に糖尿病の原因になる病気を治療すれば根治することがあるが、進行するとⅠ型糖尿病になってしまうことがある。インスリンを投与しても血糖値が下がりにくい。
<発生>
わんちゃんの糖尿病は中高齢の女の子に多いです。(男の子より約2倍多いといわれています)なんとなく太っていると糖尿病になりやすそうですが、わんちゃんの場合、必ずしも肥満によって糖尿病になるわけではなく(猫ちゃんは肥満だと糖尿病になりやすいです)、免疫介在性疾患や膵炎が原因になっていることが多いです。
<症状>
肥満、削痩、多食、多飲、多尿→進行すると尿中にケトン(脂肪の分解産物)がでて(糖尿病性ケトーシスまたはケトアシドーシス)、昏睡状態になり死亡するケースもあります。
合併症には白内障、腎臓病などがあります。
<診断>
血液検査・尿検査など。
同時に全身精査を行い、糖尿病の原因になる病気や糖尿病を悪化させている病気がないか探します。
<治療>
①インスリン療法
②食事療法
③体重コントロール(特に肥満猫で)
④併発疾患(発情・炎症性疾患(慢性膵炎など)・内分泌疾患(甲状腺機能低下症・亢進症・副腎皮質機能亢進症)・感染症(口腔内・尿路系など)・腫瘍など)の治療
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このわんちゃんは、高血糖、尿糖を呈する以外に、尿中にケトン(脂肪の代謝産物)がでていました。(尿中のケトンの有無は尿試験紙で簡単にわかります。)
<尿試験紙>
ケトンがでていると尿スティック検査で「ケトン体」というところが紫色になります。
尿中にケトンがでている場合、緊急事態(糖尿病性ケトアシドーシス)もしくは緊急事態の一歩手前(糖尿病性ケトーシス)になります。
他に何か病気がないか精査したところ、現在ちょうど発情後で血中のプロゲステロン(黄体ホルモン)濃度が高いことが判明しました。
発情後には黄体から分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)によって、インスリンが効きにくくなり、「Ⅲ型糖尿病」に陥るケースがあります。血中プロゲステロン濃度が下がれば、自然と糖尿病が治るケースもありますが、このまま1型糖尿病に移行し、生涯インスリン治療が必要になるケースもあります。また今後糖尿病の治療中に発情すると、血糖コントロールが著しく困難になるため、可能な限り避妊手術(卵巣子宮摘出術)をした方がよいといわれています。また避妊手術によって糖尿病が根治する可能性もあります。
今回はもともと乳腺のしこりを主訴に来院されたのですが、腫瘍患者は中高齢の子が多いので、術前検査によって他の病気がみつかることがよくあります。今回も術前検査により糖尿病がみつかり、乳腺腫瘍より糖尿病の方が先に命に関わってくる可能性が高いため、糖尿病を第一優先に治療しました。
本来ならすぐに手術をした方がよいですが、状態が悪く麻酔リスクが高かったため、インスリンの投与によってある程度血糖値を下げ、尿中のケトンが消失してから避妊手術を行うことにしました。
インスリン治療を行う際、数時間毎に簡易血糖測定器を用い、血糖値を測定します。
<インスリン>
私は状態によって2種類のインスリンを使い分けています。
<簡易血糖測定器>
耳の辺縁を針で一瞬さし、血液を1滴だして血糖値を測定します。数秒で結果がでます。採血量が少ないため簡単に血糖値が測定できます。ある程度状態が落ち着いたら、飼い主様にこちらをお渡しして、自宅で血糖値を測定してもらっています。
次に、インスリンをうった時間と血糖値を表にします。(血糖曲線)
プロゲステロン(黄体ホルモン)濃度が高いため、インスリンの量を多くしてもなかなか血糖値がさがりませんでした。避妊手術をしたところ、術後1週にはインスリンの投与は必要なくなり、糖尿病は根治しました。
インスリンを投与してもなかなか血糖値がコントロールできない場合、大きく分けて3つの原因があります。下記の原因を1つ1つつぶしていくことが大切です。
<インスリンを投与しても血糖値をコントロールできない原因>
①注射技術の問題
②インスリンの問題(タイプ・投薬量・動物種・投与間隔)
③併発疾患(発情・炎症性疾患(慢性膵炎など)・内分泌疾患(甲状腺機能低下症・亢進症・副腎皮質機能亢進症)・感染症(口腔内・尿路系など)・腫瘍など)によるインスリン抵抗性
今回のように複数の病気がみつかった場合は、どの病気が一番先に命にかかわってくるか、生活の質を落としているかをよく考え治療をすることが重要です。
今年のお正月はこの子と過ごすことになりましたが、元気になって退院してくれてよかったです。糖尿病が落ち着いてから乳腺腫瘍の治療をすることになりました。糖尿病は病態が複雑なので、今回はつい文章が長くなってしまいました。乳腺腫瘍の治療については別の機会に記載しようと思っています。
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甲状腺機能亢進症
こんにちは。獣医師の萩原です。ご報告が遅れましたが、先月中旬に今年初めての勉強会に参加してまいりました。様々な「猫の疾患」についての講義だったのですが、その中でも比較的中高齢の猫ちゃんに多くみられる「甲状腺機能亢進症」という病気について講義を受けてきたのでご説明させて頂きます。
【甲状腺機能亢進症】
<臨床症状>
体重減少・多食・食欲不振・脱毛・多飲多尿・下痢・嘔吐・活動亢進・元気消失・呼吸速迫・落ち着きがない・攻撃的・疲労など
*以上のように様々な症状がみられることがあります。「体重減少・多食」が比較的多くみられますが、実際、「多食」を主訴で来院される飼い主様はほとんどいらっしゃいません。高齢になってから食欲が増した猫ちゃんは、まずこの病気を除外しておいた方がよろしいかと思います。逆に「食欲不振」という症状もみられるため注意が必要です。
<身体検査>
削痩、脱毛、皮膚脱水、頻脈、心雑音、パンティング
*この中で飼い主様が一番気づきやすいのは「削痩」だと思います。ハーハーしてしている(=パンティング)場合すでに循環器・呼吸器にも異常が出始めている可能性があるため要注意です。
<血液検査>
肝酵素の上昇が認められることがある。
*血液検査では何も異常がみられないこともあります。
<画像診断>
心肥大が認められることがある。
*心肥大の症状がなくても、画像診断上(胸部レントゲン・心エコー検査)ではすでに異常がみられることがありますので、検査をお勧めしております。
<診断>
甲状腺ホルモンの測定
*外注検査になります。検査結果は2~3日ででます。
<治療>
内科治療:抗甲状腺薬の投与
外科的手術:甲状腺の摘出
*各々、メリット・デメリットがありますので、ご相談の上決定させて頂きます。
<予後>
併発疾患によって大きく左右されます。慢性腎不全(これも中高齢の猫ちゃんに多い病気です)が併発している場合、甲状腺機能亢進症を治療することで慢性腎不全が悪化することがあります。このような場合には慢性腎不全に対する維持治療をしっかりと行います。
*この病気になった猫ちゃんは痩せていて目がぎらついていることが多いといわれています。下の猫ちゃんは甲状腺機能亢進症の猫ちゃんです。
【メイちゃん・19歳・女の子】
この子は治療を開始してから1年半になります。頑張ってお薬を飲んでいるため、甲状腺ホルモンはある程度落ち着いてくれています。
ちなみにこの病気は1979年に初めて報告されました。今では猫ちゃんの内分泌疾患の中で発生頻度の高い疾患になっています。現在のように一般的な病気になった原因は、診断技術の進歩、猫ちゃんの高齢化など様々な要因が関与しているといわれています。獣医学の進歩によって、昔は診断されなかった病気が診断できるようになってきているのです。獣医学は日進月歩なので、いつまでも勉強し続けないと知識が遅れてしまうのだろうなと思う今日この頃です。
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ネブライザー
こんにちは。獣医師の萩原です。11月17日(日)は診察終了後、院長と呼吸器病のセミナーに参加してまいりました。講師はイギリスの先生で、様々な呼吸器病の症例をみることができ非常に勉強になりました。
今回は呼吸器病の治療に用いる「ネブライザー」という機械についてご説明させて頂きます。
【ネブライザー】
水や薬液を霧状に変え、気道内の加湿や薬液投与のために用いる吸入器具です。主に呼吸器病の治療時に用います。
今回の患者さんは、柴犬の小太郎ちゃんです。まだお家に来たばかりですが、だいぶ慣れてきてお家の猫ちゃんたちを追いかけ回しているそうです。咳が続くため、当院を受診されました。ケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)と診断し、治療を開始致しました。
【小太郎ちゃん(柴犬・男の子・2ヵ月齢)】
座り方がかわいいです。大人しく座っていましたが、お家ではすごくやんちゃだそうです。
毛がふかふかです。
薬液(抗生剤・気管支拡張剤など)と生理食塩水を用意します。
これらをネブライザーにいれて、セット完了です。
ホースの先から霧状の水分と薬液がでてきます。
くんくん
少し楽になったかな?
今ではだいぶ咳も落ち着いたようです。
私も数日前からカゼをひいてしまいました。喉が痛くて咳がでて声もガラガラです。私も今日からネブライザーを開始しました。ネブライザーをした後は喉がすっきりして気持ちがよいです。
咳などの呼吸器症状がみられた場合は、ネブライザー療法でだいぶ呼吸が楽になるかもしれないので、一度ご相談ください。
2010年11月11日(木) 投稿者 hagiwara | 勉強会, 呼吸器疾患, 機器紹介, 治療例, 立川市マミー動物病院・設備
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抗がん剤(化学療法)
この子は以前、ブログでご紹介した小腸腺癌を摘出した猫ちゃんです。現在、術後4ヵ月になります。
【術前】
【術後4ヵ月】
お腹の中の腫瘍なので、良くなったかどうかは外見ではわかりにくいのですが、表情も変わり、明らかに元気になったそうです。術前の体重は2.6kgだったのですが、術後4ヵ月がたった現在では4.0kgになりました。術前までの半年間は毎日吐いていたのですが、現在では嘔吐もなくなり順調に経過しています。
この子は腫瘍がリンパ節に浸潤していたため、術後、抗がん剤をはじめました。現在、1ヵ月に1回、「カーボプラチン」という抗がん剤を投与しており、今回、4回目の投与が終わりました。
【カーボプラチン】
白金化合物に分類される抗がん剤です。「抗がん剤」というと髪が抜けたり、嘔吐したりと副作用が怖いイメージがあるかもしれませんが、この抗がん剤は副作用はまれであり、わんちゃん・ねこちゃんともに非常に使いやすい抗がん剤の1つになります。
成分が白金(プラチナ)のため、昔は非常に高価で使いにくかったそうです。今は昔に比べると安価になって、わんちゃん・ねこちゃんでも一般的に使うようになってきました。
まれに嘔吐(軽度)・骨髄毒性などの副作用がみられることがありますが、投与前に血液検査で内臓の状態を把握しておけば、ほとんどの子で強い副作用がみられることはありません。万が一副作用がでた場合もすぐに対応できればさほど心配することはありません。
この子も抗がん剤による副作用は一切でず、逆に毎回抗がん剤投与直後に特に元気になるそうです。
今後も元気に暮らせるお手伝いができればと思っています。
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猫のエーラス・ダンロス症候群(皮膚無力症)
11ヵ月齢のチンチラの女の子が、肩部の皮膚の毛を噛んでひっぱってしまい皮膚がめくれてしまったとの主訴で来院されました。2ヵ月前と3ヵ月前にも同じようなことがあったとのことです。
こちらが患部になります。広範囲に傷がみられ、皮膚がめくれてしまっています。
お家に仲の悪い同居猫がいたり、お外で飼育されている猫ちゃんではケンカなどによって膿が貯留した後破裂しこのような病変がみられることがありますが、この子は室内で単頭飼育です。また膿が貯留していた様子もなかったとのことです。ここ以外の場所には皮膚病変は見当たりません。なお寄生虫・真菌検査は陰性です。
前回までは消毒で治ったそうですが、今回は病変部が広範囲で内科治療では治癒が難しいと思われます。飼い主様とご相談し、全身麻酔をかけて手術を行うことにしました。
バリカンで周囲の毛をかったところ皮膚が容易に傷つき、非常にもろく、異様に皮膚が伸びることがわかりました。皮膚はめくれて、傷口は直径8cm大にも及んでおり、皮下脂肪と筋肉は感染をおこしています。
ここで「エーラス・ダンロス症候群」という病気を疑い、めくれた皮膚を切除し病理組織検査に提出しました。
感染はより広範囲に及んでいることがわかりました。
この子の皮膚は前述したように驚くほどよく伸びます。飼い主様もこの事には以前からお気づきになられていたそうです。
皮膚の病理組織検査によって「エーラス・ダンロス症候群(皮膚無力症)」と診断されました。【エーラス・ダンロス症候群(皮膚無力症)とは】
コラーゲンの合成または線維形成の異常によって皮膚の異常な伸展性と脆弱性を示すのが特徴的な遺伝性の病気です。簡単にいうと、皮膚がよく伸び、もろくて容易にさけてしまう病気です。犬・猫では非常にまれであるといわれています。
臨床徴候・皮膚伸展指数の測定・病理組織検査結果に基づき診断します。
特異的な治療はありません。屋内飼育し、他の動物から隔離することにより、外傷を避けるようにします。動物の扱いや保定は皮膚を傷つけないように細心の注意を払います。
この子は皮膚がさけたのは今回で3回目だったのですが、今までなぜ簡単に皮膚がさけてしまったのかわからなかったそうです。今回の診察によってこの子はエーラス・ダンロス症候群で皮膚がうすくてもろいため、自分で少し毛をひっぱっただけで容易に皮膚がさけてしまったことが判明しました。エーラス・ダンロス症候群は決して治る病気ではありませんが、今回診断がついたことによって、より皮膚を扱う際には注意が必要であることがわかりました。
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柴犬の上顎下顎に発生した口腔メラノーマ(悪性黒色腫)
11歳齢の柴犬の男の子が、1ヵ月前に気づいた左上顎のしこりが急速に大きくなっているとのことで来院されました。
しこりは左上顎歯肉に存在し、表面は自潰、出血しています。
わんちゃんの口腔内腫瘍は一般的に良性は約40%、悪性は約60%であるといわれています。
この子の場合もしこりが良性か悪性か、悪性であったらどんな腫瘍なのかを診断するために、まずはしこりの一部を採材し、病理組織検査を行ったところ「非上皮性悪性腫瘍(メラノーマ疑い)」と診断されました。非常に悪性度が強い腫瘍であるため、下の骨まで一緒に切除しないとすぐに再発してしまいます。そのため腫瘍とともに上顎骨を切除しました(上顎骨部分切除術)。
術後の病理組織検査では「メラノーマ(悪性黒色腫)」と診断されました。メラノーマはわんちゃんの口腔内悪性腫瘍の中でも最も悪性度が高く、周囲組織や骨への浸潤性が非常に強く、転移性の高い悪性腫瘍です。
術後、再発・転移を抑えるため、抗癌剤を開始しました。こちらも病理組織検査を行ったところ、上顎のしこりと同様、メラノーマでした。メラノーマは通常1箇所に発生する腫瘍であり、別の場所にできてしまうことはまれです。こちらも腫瘍とともに下顎骨を切除しました。(下顎骨部分切除術)
「上顎も下顎も摘出してしまって、ご飯を食べることはできるのだろうか?」と疑問に持たれる方もいらっしゃるかと思いますが、ほとんどのわんちゃん、ねこちゃんでは顎がなくても上手にごはんを食べ、水を飲むことができるようになります。
その後、再発・転移ともになく、順調だったのですが、上顎骨部分切除術から3ヵ月半後に再発してしまいました。私の出身校で腫瘍の研修先でもあった麻布大学附属動物病院にご紹介し、CT撮影をしてもらいました。
CT撮影後、放射線療法を行いました。わんちゃんの場合、CT撮影、放射線療法ともに全身麻酔下で行います。
メラノーマは放射線療法への反応が良い腫瘍の1つです。現在、放射線療法後1ヵ月たちますが、腫瘍は縮小しています。
口腔メラノーマは無治療での中央生存期間が約2ヵ月といわれており、予後が非常に悪い悪性腫瘍ですが、この子は治療を開始してから半年が経過しています。オーナー様が非常に献身的で、この子も治療によく耐えてがんばっているので、このような良い結果に結びついているのだと思います。
口腔内にできた腫瘍は早期発見・早期治療ができれば根治できる腫瘍もありますが、発見が遅れがちです。気づいた時には手術もできないくらい大きくなってしまっているケースも少なくありません。定期的に口の中を観察し、しこりがないか確認してあげることが大切です。少しでも異常がみられた場合はお早めにご相談ください。
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回盲結腸部に発生した猫の小腸腺癌
猫 メス 11歳齢
主訴:半年前から2日に1回~1日2回位吐いている。体重減少。腹部触診にて右上腹部にマス(しこり)を触知しました。精査のため一通りの検査を行ったところ、超音波検査にて右上腹部の腸壁が8.2mmと肥厚していることがわかりました。(正常な回腸の壁は3mm以下です)
その後、マス(しこり)の場所をより詳細に調べるために、バリウム造影検査を行いました。食べ物は口→食道→胃→小腸(十二指腸→空腸→回腸)→大腸(盲腸→結腸→直腸)→肛門を通過し、便になります。この子の場合は小腸(回腸)末端までバリウムはスムーズに通過していくのですが、小腸(回腸)末端~大腸にかけての通過性が悪いため、マス(しこり)はその近辺にある可能性が示唆されました。
飼い主さんと相談し、後日試験開腹を行うことになりました。マス(しこり)は回腸末端に存在しました。回盲結腸部を切除し、腸を縫い合わせ、閉腹しました。
摘出した腸(回腸末端~盲腸~結腸)です
腸をあけると、回腸末端にはビニル袋などの異物がたくさん詰まっていました。
それらを取り除くと回腸粘膜にマス(しこり)があるのがわかりました。病理組織検査で「小腸腺癌」と診断されました。
回腸末端に癌ができたことによって通過しにくくなり、癌ができた前方の回腸に異物が詰まりやすくなり、不完全閉塞をおこし、連日のように吐いていたのだろうと思われます。
術後2週間経過し全抜糸しました。術後嘔吐は一度もみられず、体重も増えてきています。非常に順調です。
わんちゃん・ねこちゃん共に「高齢になってからよく吐くようになった」と相談をうけることがあります。そのような場合、まずは腎不全・肝不全・甲状腺機能亢進症など血液検査でわかる病気を除外して、レントゲン検査・超音波検査などによって腹腔内を精査します。「毛玉を吐いているのだから大丈夫だろう」と思い、来院が遅れて気づいた時には手遅れになってしまうケースがあります。お腹の中のしこりは外からみえないため発見が遅れがちです。吐いたり体重が減るには何か原因があるはずです。このような症状がみられましたらお早めにご相談ください。【小腸腺癌とは】
小腸にできた悪性腫瘍です。シャム猫に多く、ほとんどは回腸に発生するといわれています。食欲不振・嘔吐・体重減少・下痢・メレナ・しぶりなどの症状がみられます。転移(腸間膜リンパ節・肝臓・肺転移など)が高率にみられますが、手術で通過障害がある部分を切除することによって長期生存が得られることがあるといわれています。 -
鼠径ヘルニア
症例・・・M・ダックスフンド メス 3歳齢
主訴・・・2ヵ月前に発情出血があり、その頃から足の付け根が腫れている。
現症・・・左右共に鼠径部が腫大し、左は6.5cm大、右は2.5cm大。両側とも環納性。両側環納性鼠径ヘルニアと診断。飼い主さんと相談し、整復手術をすることにしました。
左右共に鼠径部の皮下には腹腔内の脂肪がでてきており、左鼠径部からは子宮もでていました。卵巣・子宮摘出術を行い、鼠径部にでている脂肪を腹腔内に戻し、ヘルニア孔を閉鎖しました。
2週間後、無事抜糸しました。【鼠径ヘルニアとは】
鼠径ヘルニアとは鼠径管から腹腔内臓器(大網、脂肪、子宮、小腸、大腸、膀胱、脾臓など)が突出し、鼠径部に膨隆部を形成している状態です。両側性に発生することもあります。雄より雌での発生が多く、特に不妊手術をしていない中年の雌犬に多いといわれています。雌犬では妊娠中の腹圧上昇や発情中に突然発症することがあります。ダックスフンド、ゴールデン・レトリーバー、ペキニーズ、ウェスティー、コッカースパニエルなどに多いといわれています。
鼠径ヘルニアは大きく分けて2種類にわけられます。外からヘルニア内容物をおすと腹腔内に戻すことができるヘルニアを環納性ヘルニア、戻すことができないヘルニアを非環納性ヘルニアと呼びます。環納性ヘルニアであれば緊急手術の即時適応ではありませんが、非環納性ヘルニアではヘルニア内容の循環障害によって嵌頓が生じる危険性があり、早急に手術を実施する必要があります。例えば、ヘルニア内容物が腸管で嵌頓している場合は腸閉塞になってしまうことがありますし、前立腺や膀胱であった場合には排尿困難を引き起こすことがあります。ヘルニアの内容の種類と嵌頓の有無が手術の緊急性や予後を左右する重要な要因となります。
治療は手術によってヘルニア内容を腹腔内に戻し、再発しないように鼠径輪を閉鎖します。